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2008年07月14日(月) 10時28分

布川事件 東京高裁が再審開始支持 検察の即時抗告棄却毎日新聞

 茨城県利根町布川(ふかわ)で67年、大工の男性が殺害され現金が奪われた「布川事件」の第2次再審請求で、東京高裁は14日、水戸地裁土浦支部の再審開始決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。門野博裁判長は「自白の信用性に重大な疑問があり、有罪とした確定判決に合理的な疑いが生じている」と判断した。検察側が特別抗告すれば審理は最高裁に移るが、断念すると再審が開始される。

 再審請求していたのは、強盗殺人罪などで無期懲役が確定し、仮釈放された桜井昌司さん(61)と杉山卓男さん(61)。01年に2度目の再審を請求し、05年に土浦支部が再審開始を決定。これに対し検察側が高裁に即時抗告していた。

 門野裁判長は、最大の争点となった被害者の殺害方法と順序について、土浦支部の判断を支持。「首を絞めてから口にパンツを詰めた可能性が高く、自白内容と矛盾する」とした弁護側鑑定の新証拠を採用し、「『口にパンツを押し込んだ後に手で首を押して殺した』とした2人の捜査段階の自白が客観的事実に反している」とした。

 さらに「2人が実際に体験していないために、不自然な供述の変遷を重ねたと考えられる」と指摘。「犯行後、足でガラス戸をけって破損させた」とした自白についても、新証拠に基づき「被害者と犯人が格闘する過程で被害者らの体重がガラス戸にかかり、破損が生じたとみるのが相当」と否定した。

 このほか(1)2人を被害者宅付近で目撃したという近隣住民の証言には信用性がない(2)現場から2人の指紋や毛髪が発見されていない(3)自白からしか判明しない『秘密の暴露』が存在しない−−などと指摘し、「虚偽自白を誘発しやすい環境に置いたことには問題があった」と捜査を批判。自白の録音テープに編集跡があったことから「自白には取調官の誘導がうかがわれる」と述べた。【伊藤一郎】

 鈴木和宏・東京高検次席検事の話 主張が認められず誠に遺憾。決定内容を十分検討し、最高検とも協議の上、適切に対処したい。

 【ことば】布川事件 茨城県利根町布川で67年、独り暮らしの大工、玉村象天(しょうてん)さん(当時62歳)が自宅で殺され、現金約11万円が奪われた。茨城県警は約2カ月後に桜井昌司さんと杉山卓男さんを強盗殺人容疑で逮捕した。2人は捜査段階で自白し、公判で否認に転じたが、70年に無期懲役判決を受け、78年に最高裁で確定。約18年間の服役を経て96年に仮釈放された。

 ◇布川事件の主な経緯◇

67年8月 茨城県利根町布川で大工の男性が殺され、

     現金が奪われる

  10月 強盗殺人容疑で2人を逮捕

70年10月 水戸地裁土浦支部が無期懲役判決

73年12月 東京高裁が控訴棄却

78年7月 最高裁が上告棄却、2人の無期懲役が確定

83年12月 服役中の2人が第1次再審請求

87年3月 水戸地裁土浦支部が請求棄却

88年2月 東京高裁が即時抗告を棄却

92年9月 最高裁が特別抗告を棄却

96年11月 2人が仮釈放される

01年12月 第2次再審請求

05年9月 水戸地裁土浦支部が再審開始決定

     水戸地検が東京高裁に即時抗告

08年7月 東京高裁が再審を支持し、即時抗告を棄却

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