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2008年07月14日(月) 12時52分

◇読者レビュー◇『世界一やさしい問題解決の授業』 渡辺健介著オーマイニュース

 解決しなければならない現実的な問題を目の前にした時、人はどうなるだろう?

 何とかなる、と思えれば前向きに取り組めるだろうが、難し過ぎる、と感じたら逃げ出したくなるのではないか。そして、逃げ出すこともできない時、解決する術のないまま立ち尽くし途方に暮れる——

 現実的な困難にぶつかっても、何とかできると思って立ち向かい問題を解決する力(問題解決能力)を身につけようと思うなら、あるいは、子供に身につけさせたいと思うなら、この本は読む価値がある。

   ◇

 著者の渡辺氏は、米国イェール大学やハーバードビジネススクールで学び、大企業や政府に対しての助言も行う経営コンサルティング会社マッキンゼーアンドカンパニーに勤務した経験をもつ。そして、本書では「マッキンゼーという経営コンサルティング会社で活用されているものを基に」した「問題解決の手法」を紹介していく。

 マッキンゼーで使われている手法とはいえ、中学生を読者に想定した文章は平易で、ストーリー仕立ての構成も読みやすい。

 しかし、中学生向けだから中味が薄いと想像する人がいたら、それは誤解だ。難しい内容を薄めずにわかりやすく書くことは難しいが、渡辺氏は、問題解決のエッセンスを中学生が理解できるように書くことに成功していると思う(きっと、この問題解決の手法を使ったのだろう……)。

 本書は1限目・2限目・3限目の3章構成。紹介される手法はきわめて実用的である。

 「1限目 問題解決能力能力を身につけよう」。ここでは、〈現状の理解→原因の特定→打ち手の決定→実行〉という問題解決の流れを示し、「分解の木」という「考える道具」が紹介される。

 「2限目 問題の原因を見極め、打ち手を考える」。原因を見極める手法(課題分析シート)や打ち手を考える手法、最適な打ち手を選択する手法(マトリックス)、実行プランの作成と実行の手法が、中学生3人組のバンドを主人公として紹介されていく。

 「3限目 目標を設定し、達成する方法を決める」。パソコンを買おうと考えたタローくんが、「半年以内に、60000円のさくら社製の中古パソコンを、人にお金を借りずに、お金を貯めて買う」という目標を設定し、達成までの方法を考える。2限目に登場した手法に加え、目標と現状のギャップを明らかにする手法(ギャップ分析)や意思決定ツールが紹介されていく。

 これらの手法を知っていれば、少々難しいと感じても、現実的に解決できる問題に挑戦できるに違いない。

   ◇

 実は、本書を紹介するか迷った。読後に、少しばかりモヤモヤしたものが残ったからだ。

 紹介される手法は子供にも大人にも間違いなく有用だろう。しかし、何か心に引っかかる——。それは、人間の悩みには、感情や先入観、思いこみ、好き嫌い、視野の狭さなど、問題解決の手法だけでは済まない場合もあることだ。

 ただ、それらを扱っていないと批判するのは無意味だろう。著者の渡辺氏は、現実的な問題を解決する手法を紹介しようと意図し、成功しているのだから(何事であれ、満点でなければ零点という姿勢は無意味だ)。足りない部分は読み手の側で補えばよいことだ。

 たとえば、バーンズ著『考える練習をしよう』(晶文社)は、具体的な問題を例に、子供に寄り添い語りかけるように書かれている。これを併せて読めば、渡辺氏の本の弱点をうまく補ってくれるように思う。

   ◇

 考えることは大切だが難しい。考える手法を知らないために、余計な悩みを抱え込み、現実的に解決できる問題を解決できないのは不幸なことだ。現状の日本はそうなっているのではないか? そんな著者の問題意識が、あとがきの次の一節から読み取れる。

 「これまでも、自ら学び、考え、解決する力の大切さや、学び方、ものの考え方を身につけさせることの必要性は論じられてきましたが、これ以上『必要性そのもの』を論じるよりも、行動に移すべき時かと思います。具体的なプログラムを作成し、実際に現場で教えながら改良していくことで、一歩でも前に進めるのではないかと考え……(以下略)」

 本書を読み終えると、この一節が、現状の日本が「問題解決能力を発揮していない」という批判を含んでいることを感じることだろう。

ダイヤモンド社 刊
本体1200円(税別)
2007年6月
119ページ

(記者:佐野 芳史)

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