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2008年07月12日(土) 00時00分

iPhone、携帯飽和市場に挑む読売新聞

 米アップル製の新型携帯電話機「iPhone(アイフォーン)・3G」が11日、全国約2700のソフトバンクモバイル販売店と一部の家電量販店で一斉発売された。全世界で600万台が売れた「アイフォーン」の新型機は、日本の「ケータイ」産業の常識をくつがえす可能性がある。(経済部 山本貴徳、白櫨正一)

断続的な情報で関心あおる?

 東京・有楽町の家電量販店では、発売初日に手にした購入者たちがうれしそうな表情を浮かべた。神奈川県茅ヶ崎市の男性会社員(34)は「デザインが美しく、使い勝手もよい」と話す。

 同県小田原市の男性会社員(35)は「タッチパネルで簡単に操作できるのが魅力」と、画面に触って色々な機能を試していた。

 ソフトバンクモバイルの孫正義社長は、東京・秋葉原の家電量販店前でのセレモニーに出席した。「ネット接続が便利で楽しくなる。これほど人々に感動を与える商品は、歴史上あまりないのではないか」と興奮気味に語った。

 アイフォーンの発売日や端末価格などの情報は6月上旬から断続的に明らかにされた。

 こうした情報の出方に加え、「アップルからの供給量が不明」として事前予約をとらなかったことで、じれた消費者の関心がより高まったという見方もある。

サービス、価格をメーカーが主導

 アイフォーンが注目されるのは、開発から独自サービスの提供、価格などの販売戦略までを端末メーカーのアップルが主導する点にある。

 日本での価格は新規契約で24回分割払いの場合、記憶容量8ギガ・バイト型が2万3040円、16ギガ・バイト型が3万4560円で、これはアップルとソフトバンクが話し合って決めた。ソフトバンクはアップルから7万円程度で仕入れるため、端末販売だけでは赤字で、月々の通信料金などで回収する算段をしている。

 携帯電話研究家の木暮祐一氏は「アイフォーンの登場は、携帯電話会社が端末の開発から販売まで手がける日本のビジネスモデルに転換を迫っている」と指摘する。

 日本の携帯電話市場は、世界市場と無縁な形で発達してきた。特殊な生態系が残る太平洋上の島になぞらえて「ガラパゴス現象」とやゆされるほどだ。

 その主因は、携帯電話会社が通信網の敷設からサービスの提供、端末の仕様決定・販売まで一手に担っていることにある。

 日本のメーカーは、携帯電話会社の独自サービスに合わせる形で高機能端末の開発に追われた。海外とは通信方式が異なることもあって、「純粋培養」とも言える世界でサービスや端末の進化は進んだ。しかし、日本市場が「1人1台」という飽和状態に近づくにつれて大きな成長は望めなくなり、今では「50万台売れればヒット」と言われ、100万台に達する端末はほとんどないという。

 一方、世界市場では一つの端末で複数の携帯電話会社に対応する事例が一般的だ。優れた端末を開発すれば、アイフォーンの旧型のように600万台売ることもできる。

 フィンランドのノキア、韓国のサムスン電子、米モトローラを含めた海外勢は、量産効果で価格を安く抑えた端末を売りさばく。

 これらのメーカーが世界市場を押さえ、日本メーカーが付け入るすきはほとんどない。そればかりか、海外勢がアイフォーンのような端末を相次ぎ投入すれば、足元の日本市場を侵食される構図が定着する可能性すらある。

ライバル2社も高機能端末

 ソフトバンクは新規契約数から解約数を差し引いた純増数で14か月連続首位を維持しており、アイフォーン投入は、「独走」を維持する上で追い風となりそうだ。

 これに対抗し、ライバル2社は夏商戦向けに高機能端末や新サービスを次々と投入している。ドコモは、法人向けに限定していた高機能携帯電話「ブラックベリー」を8月1日から個人向けにも販売する。KDDIは、約2000種類の映画や海外ドラマを楽しめるサービスを開始した。

音楽プレーヤーの買い替え需要も

 日興シティグループ証券・山科拓アナリスト 年間120万台は売れるのではないか。携帯音楽プレーヤーの買い替え需要を取り込める上、通信料金もネットをよく使う人にとっては安い。今後、量産効果で安くて高品質の端末を生産する海外メーカーが増えれば、国内メーカーの再編を促す可能性もある。(談)

関心ない人の取り込み困難

 調査会社IDCジャパン・木村融人シニアアナリスト 熱狂的なアップル愛好家はつかめるが、それほど関心のない利用者を幅広く取り込むのは難しいと思う。ワンセグ視聴やおサイフケータイなど日本独特の機能がなく、7000円を超える月額料金も高い。販売数は合計で30万〜50万台くらいではないか。(談)

絵文字、ワンセグ未対応

 日本を含む世界21か国・地域で11日発売された新型アイフォーンは、旧型に比べて通信速度が2倍になった。2007年6月に発売された旧型は欧米など6か国で600万台売れたが、日本では通信方式が異なるため販売されなかった。

 新型は、全地球測位システム(GPS)を初めて搭載した。記憶容量が8ギガ・バイト型の場合、メモリーカードなどの記憶媒体なしで最大2000曲程度の音楽が保存できる。音楽などの販売サイト「iTunes(アイチューンズ)」も利用できる。

 ただ、携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」視聴や、端末を読み取り機にかざして商品代金などを支払う「おサイフケータイ」などの機能には対応していない。

 また、メールの際に感情や施設などを絵で表せる絵文字も使えない。日本メーカーの高機能端末では「ほぼ標準装備」とされるだけに、このあたりが今後の売れ行きを左右するカギとなりそうだ。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080714nt01.htm