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2008年07月11日(金) 20時51分

下関駅通り魔事件 「やっと終わった」遺族 上告棄却で毎日新聞

 下関駅通り魔事件の上告棄却判決後、事件の被害者らは東京・霞が関の司法記者クラブで会見。妻瑞代さん(当時58歳)をひき殺された松尾明久さん(67)=北九州市=は「望んでいたことが、ようやくかなった」と落ち着いた表情で語った。

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 事件当日、下関駅に瑞代さんを迎えに行く前に警察から事件の連絡があった。1年ほどは、妻が亡くなったことを現実として受け止められなかった。

 この日は事件前年に熊本・天草に旅行した時の瑞代さんの遺影をひざに置き、判決を聞いた。心の中で「やっと裁判が終わったよ」と語りかけた。社会が悪いと思い込んで無関係の人を殺傷した自分勝手な被告は、絶対に許せない。「自分の命が奪われる時、奪った命の尊さや重さに、きっちり向き合ってほしい」と語った。

 切りつけられ重傷を負った永藤登さん(77)=山口県長門市=は「被告には罪の意識を深く感じてほしい」と話した。【北村和巳】

 ◇復讐心転化と親との確執 秋葉原事件と類似

 事件の背景や社会に投げ掛けた課題について、作田明・聖学院大客員教授(犯罪心理学)に聞いた。

 上部被告は仕事や人間関係での挫折から不満を募らせ無差別殺人に向かった。事件の手口だけでなく、置かれていた状況も秋葉原17人殺傷事件の加藤智大容疑者とほぼ共通している。人間関係が苦手で、周囲から評価されないとの思いが復讐(ふくしゅう)心に転化している点も同様で、親との確執も共通要素だ。

 家庭に恵まれ学校の成績も良かった過去の栄光と、現状との落差が事件の根底にある。大きなことができると顕示し、注目を集めたいという思いが犯罪に向かわせている。

 2人とも周囲に相談する人がおらず、家族も心理的に遠い存在で、人間関係が歯止めにならなかった。現在は、核家族化や地域社会の崩壊で「孤立」した人間が増え、会社の社会福祉的機能も失われている。こうした環境が背景の可能性があり、社会全体で考えていくべき問題だ。

 秋葉原事件の後、同様の犯行予告が相次いだ。下関事件のころは異常と見られていたものが、今回は親近感に近いものを感じる若い人たちがいる。非正規雇用の増加など社会の不安定さが、現状への不満につながっているのではないか。

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