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2008年07月11日(金) 18時28分

中村 中に独占インタビュー(上)オーマイニュース

 2007年大晦日、NHK紅白歌合戦。その舞台でとりわけ注目を浴びたアーティストが、デビュー2年目にして初出場を果たした中村 中(あたる)さんだった。

 番組内で細かく紹介されたバイオグラフィー。そして、ステージで歌われた代表曲「友達の詩」のあまりに切ないメロディーと歌詞、加えて美しく透明な歌声。それらが、お茶の間の人々に彼女の存在を一気に知らしめることとなった。

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 しかし、紅白出場前、本来であれば、浮かれてもおかしくない年末の時期、 「私で良いのだろうか……」と彼女は不安を覚えていたのだという。

 「中学生くらいからそういう考え方なんです。こんな私でもできることなのだから、ほかの人でもきっとできるだろうと思ってしまうんです」

 極端なまでに悲観的で自分を低く評価する。シンガーソングライター“中村 中”にはそんな一面がある。

 舞台こそ違うが、例えば、本当に“強い”と言われるトップアスリートには、臆病(おくびょう)な人が多いと聞く。

 負けること、失敗することを恐れ、練習を繰り返し、臆病であるがゆえに、1つの課題をクリアしても、また別の不安要素に気づく。しかし、最終的にはあらゆる不安を排除して試合に臨み、結果を出せる。

 もしかしたら、彼女もまたそういうタイプなのかもしれない。臆病であるがゆえ、とことんまで自分を追い込むのではないか。だからこそ、常に前進し続けられているのかもしれない。

  ◇

 紅白歌合戦から、7カ月。ますます注目度を増す中村 中さんが、このたび、ニューシングル『風立ちぬ』(3曲入りマキシシングル7月9日発売)をリリースした。

 中村さんは『風立ちぬ』を作った際の心境をこう語る。

 「本当に大事な人なら、そばにいなくても、将来の成功を願い続けたいし、お互いにがんばろうと思えるはず。たとえ、2度と会えないとわかっている相手でも、その人が支えになることもあると思うんです」

 自分自身の近況の体験をベースに、前向きな心境を歌った『風立ちぬ』は、7月12日公開の話題作『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(主演:ウエンツ瑛士)の主題歌に抜擢(ばってき)。

 劇中描かれる、妖怪である鬼太郎と人間の女の子の決して相いれないながらも惹(ひ)かれあう関係に、歌は見事にシンクロしているそうだ。

 『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』の石塚慶生プロデューサーも、映画の公式ホームページ内で以下のコメントを残している。

 「やさしさと強さ、光と影。すべてを兼ね備えた唯一無二の美しい歌声が、鬼太郎ワールドを包んでいただけるものと思い、オファーしました。今回の映画のテーマにふさわしいエンディングになるものと期待しています」

 子どもから大人まで、幅広い世代の人たちの耳に、再び彼女の声が届く日が近づいてきている。この記事では、さらなる飛躍が期待される中村 中さんの等身大の姿を、お伝えしていきたい。

■うれしさと表裏一体にある苦しみ

 「うれしすぎて苦しくなってしまったというような経験、ありませんか?」

 紅白歌合戦について話を聞いているときに、ふいに彼女はそう言った。

 「悲しい気持ちも苦しいものですが、それはまだ許容できる。でも、うれしいことによって生じる苦しさは我慢できないんです」

 紅白出場が決まったとき、「これは名誉なことだな」「母に恩返しができるな」と喜びの気持ちを抱くと同時に苦しさもまた襲ってきたという。

 幼稚園のころからだそうだ。うれしいことがあると、興奮してしまうのか、パワーをどのようにコントロールすべきか、わからなくなり、苦しくなってしまうのだ。

 「いませんでした? 幼稚園のころ、うれしすぎて、パワーがあふれてグーで友達を殴っちゃうような子」

 うれしいと感情を抑えきれなくなる。そんな自分に気づき、ある年代から、うれしいときこそ自分の感情にブレーキをかけるようになったという。彼女はそうやって自分の感情を抑えながら生きてきた。

 「歯止めが利かなくなるタイプで、過度にいろいろなことを考えちゃうのかもしれません。それでショックを受けたくないから、必要以上のワクワクを感じないようにしているのだと思います。笑点の座布団じゃないですけど、勝手に自分で積み上げすぎて、そこから落ちてしまったら痛いですよね」

■たくさんの強い感情

 「うれしい」に限らない。とにかく、あらゆる感情が強い。

 子どものころ、水が好きで、プールの時間が好きだったという。しかし、その時間にも、楽しさと同時にある種の窮屈さを感じていた記憶があるという。

 「水の中にいると、母体の中にいるような落ち着いた気持ちになりました。でも、ある瞬間、まわりに人がたくさんいることにあらためて気づいてしまった。そうすると、自分1人のはずの母体の中に別の人がいるような落ち着かない気持ちになってしまう。そして、その空間を独り占めしたくなって苦しくなるんです」

 1つの状況に対し、相反する感情が同時に存在する。これは、彼女の特性であり、その稀有(けう)な才能を支えているものの1つなのかもしれない。

 記者はかつて、メンタルトレーニングに関する取材を専門家に対して行ったことがあるのだが、その際、6 つの評価軸を持った心理テストを見せてもらった。その評価軸とは、父性、母性、攻撃性、情緒性、楽観的、悲観的というような区分だったと記憶している。

 こういったテストでは大概、1つが高ければ、対極に位置する1つは低くなるケースがほとんどだ(例えば、父性が高ければ、母性が低い)。しかし、彼女の場合、おそらくそのどれもが高い数値を示すような気がしてならない。会話を続けるうち、ふと、そんなことを考えていた。

 そのことを伝えると、笑いながら言う。

 「エゴじゃないですか、エゴ。わがまななんだと思います。全部、やりたいし、全部フルで生きていきたいのだと思います」

 たくさんの感情を、それぞれ高いレベルで抱えている。だからこそ、彼女の作る歌は、情感にあふれ、多くの人の心に強く熱く響くのだろう。

(後編につづく、7月13日掲載予定)

(記者:馬場 一哉)

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