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2008年07月11日(金) 11時07分

建設現場「無災害記録」は本当か?(下)オーマイニュース

(上から続く)

 厚生労働省は、労災かくし対策として、それに関する周知・啓発や事案の把握等実施している。

■厚生労働省の労災かくし対策

 同省によると、労災かくしとは、「故意に労働者死傷病報告を提出しないこと」、または「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出すること」とされている。同省ホームページでは、以下のような労災かくし事例が紹介されている。

・建設現場で、3次下請けであるA社の作業員が右手首を骨折したが、Aは2次下請けBと共謀して、「受注を確保するために元請に労災保険で迷惑をかけたくない。」として労働災害を隠蔽したことにより、AとBの代表者が書類送検された事例。

・建設会社Cが元請け建設会社から2次下請けしたビル建設工事を行っていたが、同社労働者が同建設現場でやけどを負った労働災害が発生した際、「自社の資材置き場で起きた。」と労基署に虚偽の報告をしたことにより、同社と専務取締役が書類送検された事例。工事現場での労働災害は、元請け建設会社の労災保険で補償されることになっているが、同社専務は「元請けの労災保険を使うと迷惑がかかり、仕事がもらえなくなると思った。」と供述。

 要するに、下請け会社は、元請け建設会社に迷惑をかけたことで受注に影響することを懸念し、隠蔽・虚偽報告をする例があるということだ。

 今回のケースそのものではないか。

 通常、建設現場では、無災害記録表なるものが掲げられ、無災害が何万時間も継続しているかのように表示されている。元請けのゼネコンも、表向きはどのようなささいな事故でもすぐに職長や監督に報告するように下請会社に呼びかけている。

 しかし、その裏では日々、下請け会社の作業員が事故を起こし、会社から隠蔽・偽装されていると推測する。なお、労災を起こした社員が不利な査定を受けることも、会社によってはあるらしい。そういう会社では、社員自身がまず労災を隠そうとする。それに、労災処置をすると、手続きが何倍も面倒で、そうでなくても納期に追われる現場の仕事の妨げになるのである。

■社長への質問

 先の当社の事例も、労働安全衛生法に違反につながる行為であると言える。労災事例においては発生・被災状況を正確に報告し対策をとらなければ、同種災害の再発防止など望めない。従業員の生命・身体の危険と、元請のゼネコンに迷惑をかけ、受注に影響することとではどちらが重視すべき問題であるのだろうか。

 6月11日、私はこの件についても、社長に内容証明付きで以下のように質問した。

 なぜ被災場所を事実と異なる倉庫に変更する必要があるのか、当社ではなぜこのような取扱いをされるのか、社長からの回答を求める。会社が労働基準監督署に労災事故の虚偽報告をすれば、これは労働安全衛生法違反であり、このような事では労災事故の防止は望めない。コンプライアンスに対する経営トップのいい加減な姿勢の反映と言うしかない。

 この質問についても、他の質問と同様に社長からの返事はまだない。

(記者:黒澤 弘昭)


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