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2008年07月07日(月) 13時10分

タバコがなくなっても、税収への悪影響ナシオーマイニュース

 私自身は非喫煙者、さらに「嫌煙家」である。以下は嫌煙家の立場からの分析である。

 6月中旬、京大大学院経済学研究科の依田高典教授による、「タバコが1箱1000円になれば97%の人が禁煙し、最大で約1.9兆円の税収減になる可能性がある」、との試算が報道された(依田教授のレポートはこちら)。

 また、タスポの導入により自販機での売り上げが落ちたといったニュースもあった。

 これらは平たくいうと、「タバコを規制するとこんなにデメリットが生じますよ」ということを伝えるニュースだ。

 一方、同じようなアンケート内容であっても、厚生労働省所管の医療経済研究機構の調査では、1箱1000円になると、喫煙をやめる人は63%、としている(医療経済研究機構の調査はこちら)。

 前者は、たばこ税の増減の立場から、後者は医療にかかる税金の増減の立場からの調査であり、見方が異なって当然である。ただ、喫煙者の立場からすると、「こんなに税金(たばこ税)が減っていいんですか。値上げしない方がいいですよ」と、依田教授のデータの方を好んで提示してくることだろう。

 嫌煙家の立場から、私は依田教授の調査結果を自説に都合よく引きがちな愛煙家の理屈を批判的に分析したい。

 まず第1は、1箱1000円になったときの「禁煙しようと思う人の割合は、97%」というパーセンテージの高さだ。医療経済研究機構の調査の63%となぜ違うのか。

 依田教授による調査方法では、無作為に選んだ喫煙者約600人を対象にアンケート調査している。

 一方、医療経済研究機構の調査は、やや古く1999年度のデータだが、全国20歳以上の男女で喫煙習慣のある者、約2100人を対象としている。

 人数に関しては、日本の喫煙者数は約2600万人と言われているため、統計学上、どちらの調査も問題ある人数ではない。

 しかし、このアンケートの質問の方法には少し違いがある。喫煙量などについて聞いている点は共通しているが、医療経済研究機構のアンケートでは職業や年収など、喫煙者の属性や周辺環境を聞いているのみ。

 一方、依田教授の方法では質問時、回答者に対して「家族への健康被害」など、「価格以外の変数」についても同時に調査している。低・中度のニコチン依存者は「価格以外の変数」も禁煙に効くため、数字が高めに出た可能性がある。そもそもアンケートの質問が違えば、結果が違うのは当たり前なのだ。

 愛煙家は次にこう言うかもしれない。「パーセントの数字に差がある理由はわかった。だが、それでも税収が減ることに変わりはないじゃないか」と。

 だが、この点については、税収(プラス面)だけでなく、税負担(マイナス面)も合わせて考える必要がある。

 医療経済研究機構による上記調査(1999年度)に基づくが、タバコによる社会的損失は、7兆1500億円に上る。内訳は、タバコによる健康被害によって支払われる保険料が1兆3000億円、タバコによる健康被害による入院や死亡、さらに寝タバコなどタバコが原因の失火などで人が亡くなることによる労働力の損失が約5兆8500億円だ。

 依田教授の方もご自身のサイトで、社会的コストは、医療費1兆3000億円、プラス入院や死亡による労働力の損失、さらに火災による財産の損失を加え、総額年約4兆9000億円に達するとはじいている。

 2007年度のタバコによる税収は、JTのサイトによると、約2兆2400億円だ。一方、社会的コストの方は、医療経済研究機構の数字を使うと、7兆1500億円。税収と社会的コストを相殺すると、差し引きマイナス4兆9100億円。

 その負担は税金でまかなわれているのだから、約5兆円もの税金がタバコに使われていることに等しい。JTによると、タバコの年間消費量は2700億本(2007年度)だから、要するに、タバコ1本あたり約18円の税金が投入されている計算になるのだ。

 したがって、もし日本でタバコの販売が一切できなくなったとしても、結果的に支出は抑えられ税収はプラスとなるということになる。

 依田教授自身、サイト上で、「だからタバコを値上げすべきではない」と言っているわけではなく、「いきなり値上げするのは懲罰的だから、十数年かけて徐々に値上げすべき」と書いている。この点を各メディアは全く取り上げておらず、そのせいで勘違いしている愛煙家もいるらしい。

 上記データは「社会的損失の計算方法」など、いくつか客観性に欠ける数字も確かにある。ただ、だからといって愛煙家に「たばこは税収面で貢献している」と胸を張られる筋合いはない。

 今までタバコを吸ってきた人も、タバコを売って生計を立ててきた人も、それらは嫌煙家の「忍耐」によって守られていたと認識してほしい。

 それでもまだマナーを守る人ばかりであれば、こちらも譲歩することもできただろう。だが、あれほど世間で問題視されてもいまだに禁煙スペースでの喫煙や歩きタバコ、ポイ捨てなどマナーを守らない人もいたるところで見かける。税金面ですらプラスになっていると言い切れない、むしろマイナスになっているのであれば、もはや耐え続ける理由などどこにもない。

 嫌煙家の私としては、あとは一刻も早くタバコを一箱1000円にして、この世から、せめて日本からだけでもタバコが消えてなくなる事を切に願うばかりである。

(記者:高埜 智)

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