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2008年07月06日(日) 09時45分

「解散は困難」との声も 地域の福祉担うあいりん銀行産経新聞

 大阪市が解散の検討を始める「あいりん銀行」。事務所はあいりん地区の福祉を担う市立更生相談所の1階フロアの一角にある。1日働いて、その日に日当をもらう生活を続ける日雇い労働者に、預金という習慣をつけることで、45年間、この地区の福祉を担ってきた側面もある。年月が流れ、日雇い労働者が激減しているという現状があるものの「解散は難しい」との声も出ている。

 「ここしか預けられるところがないねん」。預金者の50代の男性はため息交じりにこう話す。この男性は1日で100円、35円などと4回も出し入れを繰り返した。預金者の多くは100円や10円単位で預け入れを行っており、毎日のように訪れる人もいる。1年以上出し入れがない睡眠口座を除く約6500口座の平均預金額は約12万円。どれもこつこつと積み上げた預金だ。なかには残高が1000万円を超す預金もあるという。

 あいりん銀行は、日雇い労働者の手持ち現金を預かることで、路上強盗で奪われることや、飲酒や賭博に使い果たしてしまうことを防いできた。預金者のなかには事務所を“憩いの場”にする人もいる。

 住民票がなくても口座を開設できるのは、あいりん地区の簡易宿泊施設と地方の建設現場を行き来する日雇い労働者が住民登録しないケースが多いため。市の推計では、あいりん地区で暮らしながら住民票のない人は約5000〜8500人。こうした人たちが預金者とみられる。

 あいりん銀行が解散すると、預金者は住民登録し、他の金融機関に口座を作り、預け換えする必要があるが、実際には住民登録するよう呼びかけるだけでも困難だ。

 実際に平成17年3月に解散した東京の日雇い労働者たちが多く住む山谷地域であいりん銀行と同様の業務を行っていた東京都城北貯蓄組合は、解散時の預金残高約9500万円のうち、払い戻しできたのは3年でわずか150万円。解約されていない8500弱の口座のうち、残高1、2円の極小額口座が約7300口座を占め、これらは、払い戻しどころか、預金者の生死や居住地を調べることさえ困難という。あいりん銀行でも1年以上動きのない約6万の睡眠口座は残高が約500万円ある。

 こうした現状を、市立更生相談所の中元良介所長は「実際に住民票がなく、市中銀行に口座を開けない人がいる以上、預金受付はだれかがやらなければいけない。あいりん地区が全く日雇い労働者の町でなくなるまで解散は難しいのではないか」と話している。

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