記事登録
2008年07月05日(土) 08時26分

【クローズアップ】どうなる 「お魚パニック?!」フジサンケイ ビジネスアイ

 ■原油高が食卓を直撃

 ■値上げ、消費落ち込み懸念

 燃料費高騰にあえぐ全国20万隻の漁船が15日に一斉休漁する。窮状を訴える一日限りのデモンストレーションのため、スーパーの店頭からお魚が消えたり、値段が一気に上がるなど大きな影響が出ることはなさそうだ。ただ、原油価格の高騰に沈静化の兆しはみられず、中長期的な供給不足や値上がりを危惧(きぐ)する声は多い。価格高騰で消費者のお魚離れが一段と進む可能性もあり、原油高が日本の食卓に暗い影を落としている。(田村龍彦、大塚昌吾)

 ≪15日に一斉休漁≫

 「(休漁が)何度も続くようになれば影響は避けられない。ウナギの産地偽装の問題も起こったばかりで、消費者に心理的にマイナスにならないか心配している」

 首都圏地盤の中堅スーパー、サミットの担当者は、こう表情を曇らせる。

 6月に実施されたイカ釣り漁船の休漁では、価格が前年同期に比べ1割上昇し、売り上げは1割落ち込んだ。

 イトーヨーカ堂でも「(休漁の)当日か翌日は、近海物の鮮魚が売り場からなくなるだろう」(広報担当者)と予想する。

 このため、養殖のブリやタイなどを事前に物流拠点に集めておくほか、冷凍のイワシやサンマなども調達し、鮮魚売り場の品ぞろえを確保するという。

 ≪回転すしも苦戦≫

 「短期的には影響はない」と話すのは、回転すし店を全国で約180店展開する、くらコーポレーション(大阪府堺市)。

 もっとも、庶民の味方の回転すしを取り巻く環境はすでにジワジワと悪化している。

 ここ数年、仕入れ価格は新興国の需要増大で上昇傾向にあり、同社では年間数億円レベルのコスト増になっているという。このため、めん類やデザートのサイドメニューを充実させ、売り上げに占めるすしの割合を下げるなどの対応で、何とか「1皿105円」を守ってきた。

 しかし、原油高による休漁は世界的に広がっており、供給不足から値上がりに拍車がかかれば、自助努力だけでは吸収できなくなる可能性もある。

 首都圏で26店の江戸前握りすしチェーンを展開する築地すし好(東京都中央区)は「値段が上がっても、市場にある魚を買うしかない」と、一斉休漁に不安を隠さない。

 魚の価格だけでなく、配送やおしぼりなど、店舗運営のコストも上昇している。それでもマグロなど一部を除いて店頭価格は値上げしておらず、大量仕入れなどによるコスト削減に懸命だ。「すし屋だけでなく、外食はみんな、これからが大変」とこぼす。

 有名すし店「銀座久兵衛」では、マグロなら昔ながらの取引先と年間の購入価格を決めているため、「魚の価格高騰の影響は出ていない」(今田洋輔店主)という。それでも、「魚より折り詰めなどの消耗品の値上がりの方が問題」とコスト高の波にさらされている。

 減少傾向が続く、魚の消費量が一段と落ち込む懸念もある。大手スーパーでは「魚がなかったら、お客さまは肉など他の商品を買うだけではないか」と話す。

 サミットでも「ここ1、2年、魚は苦戦が続いている」という。6月の魚の売り上げは、既存店ベースで前年比2%増で、精肉の7%増、野菜の5%増に比べると伸びていない。

 ガソリンや食品の値上げラッシュで節約志向を強める消費者は、外食を控え、家庭で調理する“内食”に回帰しているが、魚の消費は取り残されている。

 窮状を訴える一斉休漁だが、逆に消費者のお魚離れを加速させ、自分で自分の首を絞めるような結果を招く懸念はぬぐえない。

                   ◇

 ■燃料費補助は期待薄

 一斉休漁は、漁業者の窮状を訴え、国の支援を引き出す狙いと同時に、燃料コストに比べ上昇テンポの遅い魚の値段を適正水準に引き上げたいとの思いも込められている。ただ、国の厳しい財政事情から燃料費補助などは難しいうえ、魚離れがさらに進めば、価格引き上げも絵に描いたモチに終わりかねない。

 一斉休漁に参加するのは、全国漁業協同組合連合会(全漁連)や大日本水産会など16の漁業団体に所属する漁船。6月に休漁を実施したイカやすでに休漁を表明していたマグロ、カツオの漁業団体も含まれ、1日で2〜3万トンの水揚げがストップする見通しだ。

 漁船の燃料であるA重油の価格は、今年6月に1キロリットル当たり10万円を突破。この5年で3倍近くに急騰した。これに対し、主要魚種の平均産地価格は5年で3割程度しか値上がりしていない。

 漁業者は漁に出ても赤字が膨らむ苦境にあり、全漁連では「燃料費がさらに上がれば、2〜3割が廃業する」と訴える。

 ただ、一斉休漁で求めている燃料費補助や税制上の優遇措置について、政府は「燃料費の価格補填(ほてん)は直接的すぎる」(町村信孝官房長官)と否定的だ。

 魚の価格上昇も“両刃の剣”だ。5月末に休漁を表明したマグロは、大衆向けのメバチやキハダが2〜3割値上がりているが、これに対し、スーパーなどはマグロの刺身の取り扱いを減らなどの対応を進めている。

 6月のイカの休漁では、東京都中央卸売市場(築地市場)で卸売価格の値上がりは若干にとどまったが、スーパーなどでの売り上げは低迷し、安い冷凍物に代えるなどの動きも広がった。

 漁業者にとっては「コストに比べ値段が安すぎる」との思いは強いが、値段が上がれば、節約志向を強める消費者からすぐにソッポを向かれてしまうのが実情だ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080705-00000004-fsi-bus_all