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2008年07月05日(土) 00時15分

井上さんの苦難の人生発刊へ中国新聞

 識字学級に通い、部落解放文学賞を数多く受賞した府中市の井上ハツミさん(81)の作品集「うたとことば『私の生まれた日』」(解放出版社)が近く、発刊される。6日、ゆかりの人たちが同市内に集い、出版を祝う会を開く。作品集はB6判、215ページ。井上さんが60歳前後から懸命に字を学び、生い立ちや実体験をつづった「うた」「ことば」の23点を収録した。井上さんは「奪われてきた文字を読むことで世の中を知り、書くことで己を見つめ直せた」と語る。

 収録作品の一つ「生命の重み」は、2002年度の文学賞識字部門の入選作。井上さんは20歳のころ、交際中の男性の子を身ごもった。しかし、男性は差別発言をした上、姿を消した。貧困のため、子どもは出産後3カ月で息を引き取った。厳しい生活は続き、迎えた50年後のある日。自らの死を控えた男性は電話越しに「わが子さえ差別した」と悔い、涙を流しながらこんなふうに話した。「すまなかった。あの世で父親になれるよう頑張るからな」

 井上さんは「書きながら涙が止まらなかった。差別する人もされる人も心を貧しくしてしまう」。家庭などで相次ぐ殺傷事件も憂い「命の重み、大切さを知ってほしい。その人の心で読んでもらえれば」と願う。

 作品集は1365円。6日午前10時半から府中市文化センターで開く「祝う会」でも購入できる。祝う会事務局=電話0848(37)3295、解放出版社=電話06(6561)5273。

【写真説明】生い立ちや体験をつづった作品集を手にする井上さん

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200807050032.html