記事登録
2008年07月04日(金) 00時00分

<5>動き始めた自治体 話し合える土壌読売新聞

 ◆話し合える土壌作りから
劇でうつ症状の人への接し方を伝える国富町の保健師ら

 国富町では、最近6年で60人が自殺した。一つの集落がそのままなくなったのと同じだ。

 同町の保健師・武田恭子さん(42)らは昨年12月、県が市町村の保健師を対象にして開いた講習会に参加した。講師は自殺対策で先進的な取り組みをしている青森県つがる市の保健師らが務めた。

 「保健師の取り組みで、自殺の現状は変えられると聞いて、動き出した」。武田さんら同町の保健師3人と看護師4人は1月、自殺防止策の一環として、演劇を始めた。

 「『頑張れよっ』とか、あんげな時はあんま言うたらいかんちゃね」

 「じゃっとどぉ(そうだよ)」

 6月24日。手作りのかつらや衣装を身につけて高齢者にふんした保健師と町職員の演技に会場は笑いに包まれた。骨折し、回復後も体が動かずに家に閉じこもりがちになった高齢女性を、民生委員らが親身になって話を聞いて気力を取り戻す内容。うつ症状の人への接し方を伝えた。

 宮崎の自殺率は毎年全国ワースト10以内。危機感を持つ自治体のうつ病対策や自殺防止の取り組みが活発になってきた。

 だが、最近まで「自殺」という言葉を口に出すこともためらわれた。

 「広報誌では、自殺を取り上げづらくて」

 昨年2月。県小林保健所(小林市)の担当職員に、隣の高原町職員が切り出した。

 同保健所が準備した自殺特集を、自殺率の高い西諸県地域の2市2町(小林、えびの市、高原、野尻町)が、それぞれの自治体の現状などを加え、広報紙に一斉に掲載する予定だった。ところが、同町では掲載が1か月遅れ、ほとんど保健所だけの内容になった。同町の幹部職員が「遺族のことを考えると、自殺の話題は避けた方がいい」と、掲載見送りを求めたという。

 昨年4月、同保健所を中心に民間、行政の58機関が参加して「西諸地域自殺対策協議会」が発足。自殺から目を背けようとする意識の変革に取り組んできた。

 「現状を知ってもらうことが第一歩」と、チラシの配布や講演会を実施。全国一斉の自殺予防週間(9月10〜16日)に加え、独自に3、6、12月にも予防週間を制定し、集中的に啓発も行っている。

 昨年度の同保健所への相談件数は36件。少ないが、前年度の約2倍になった。「近所の人の様子がおかしいので、見に行ってほしい」といった通報も増えている。

 県内の行政による自殺対策は始まったばかり。昨年11月に県の自殺対策本部が設置された。官民合同の「県自殺対策推進協議会」(23団体)は、6月6日に動き出した。

 小林保健所の蛯原幸子・健康づくり課長は「私たちも、最初は自殺という言葉に抵抗感があった。自殺について話し合える土壌作りが、行政の取り組みの第一歩なのです」と訴える。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/miyazaki/feature/miyazaki1218092264157_02/news/20080807-OYT8T00528.htm