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2008年07月04日(金) 00時00分

凶行で「アピール」米でも読売新聞

ジャック・レビンさん 66
ジャック・レビンさん 66  米・ボストンのノースイースタン大で犯罪学を教える。著書に「殺人願望—動機なき殺人の解説」(共著)、「連続殺人と猟奇的殺人」など。

 ——事件をどう見るか

 加藤智大容疑者(25)は家族との不和、職場での不満など複数の要因によって孤独感にさいなまれるようになり、絶望的になって凶行に至ったのだろう。米史上最悪の32人を殺害した昨年4月のバージニア工科大銃乱射事件に似ている。孤立感を深めた23歳の在米韓国人学生は犯行を予告するビデオなどをテレビ局に送っていた。

 ——米国での無差別殺人事件の発生状況は

 1度に4人以上殺害される事件はこの30年間、毎年20件以上発生している。先月末にも、ケンタッキー州の工場で25歳の男が、勤務中に上司から携帯電話の使用を注意された後、上司と同僚計5人を銃で射殺し、自殺した。こうした事件は珍しくなく、全米規模の新聞やテレビで大きく報じられることはない。

 ——共通する特徴はあるか

 犯人が、自分の恵まれない状況などに慢性的な欲求不満を募らせた揚げ句、失業や失恋などが引き金になり、社会に対し復讐(ふくしゅう)を果たそうと思い込むケースが多い。自分の存在を世間にアピールするため、効果的な犯行場所の選択など綿密な計画を立てるのも特徴だ。こうした凶悪犯をあがめる風潮もあり、犯人の写真が売買されたり、獄中の犯人と文通を求める若い女性らが登場したりしている。

 ——日本での無差別殺人事件についてどう考えるか

 かつては地縁血縁など東洋的コミュニティーが犯罪抑止に役立っていたが、近年はアメリカ的な個人主義が普及してきて、個人が孤立するケースが増えているように思う。もし銃規制が緩ければ、日本も一気に事件の被害者は増えるのでは。

 ——米国での対策は

 一部の企業が労働者を解雇する時に新たな雇用先をあっせんする制度を取り入れたり、学校で怒りの抑制法などを授業に取り入れたりして、一定の成果を上げている。事件の発生を完全に防ぐのは難しいが、大切なのは企業や学校が、労働者や子どもを人間らしく扱うことだと思う。(おわり)

 事件や社会問題には様々な〈顔〉があります。新企画「アングル」では、各方面の識者に多角的な視点から分析してもらい、読者の方々に考えるヒントを提供できれば、と考えています。第一弾は、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。逮捕された加藤智大容疑者(25)の心理や事件の背景を読み解いてもらいます。

http://www.yomiuri.co.jp/national/angle/na_an20080704.htm