記事登録
2008年07月03日(木) 00時00分

進学校ゆえ疎外感強まる読売新聞

鈴木高弘さん 64
鈴木高弘さん 64  専修大付属高校長。1997年、東京都立足立新田高の校長に就任、中退者が続出する荒れた同校を改革し、人気校に変身させた。

 ——加藤智大容疑者(25)は高校進学後、学業不振に陥った

 進学校で挫折してしまった点に注目したい。進学校では、教師を評価する基準は「有名大学に何人合格させたか」。教師と生徒をつなぐのは、大学に提出するための調査書や推薦書だけにもなりがちだ。いったん落ちこぼれると、進学校では普通校以上に疎外感を強めることになるかもしれない。

 ——高校時代、問題行動は特になかったようだが

 本当になかったのか、それとも誰も気付いてあげられなかったのか。加藤容疑者について当時の学年副主任が「あまり記憶にない」と振り返っていたのが気になる。私は生徒の半数が中退するような高校で教えたが、こうした学校ではドロップアウトしないよう生活指導に力を入れるので、生徒とのかかわりは自然と深くなる。だが、私の知る限り、進学校では生徒とのかかわりは非常に希薄。生徒の心の問題に踏み込まない教師も増えている。

 ——卒業後、自動車関連の短大に進んだ

 人生には様々な選択肢があり、一流大学に合格することが至上の価値ではない。好きな自動車の世界へ一歩踏み出したのは悪い選択ではなかったと思うが、結局、資格も取らずに卒業したのは、家庭や学校が植え付けた学歴社会の呪縛(じゅばく)から、逃れられなかったからでは。

 ——「社会への絶望」が殺人の理由になるのだろうか

 ギリギリで犯行を踏みとどまらせるもの、それは「命の大切さ」を認識しているかどうかではないか。加藤容疑者は、命に対する想像力が決定的に欠けていたとしか思えない。私はこれまで問題のあった生徒には特別養護老人ホームでボランティアをさせてきた。現実の「死」とはどういうものか、大切な人が死んだ時の悲しみとはどういうものか、子どもたちに教える必要があるのではないか。

 事件や社会問題には様々な〈顔〉があります。新企画「アングル」では、各方面の識者に多角的な視点から分析してもらい、読者の方々に考えるヒントを提供できれば、と考えています。第一弾は、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。逮捕された加藤智大容疑者(25)の心理や事件の背景を読み解いてもらいます。

http://www.yomiuri.co.jp/national/angle/na_an20080703.htm