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2008年07月03日(木) 14時43分

「Web図書館」 自宅で手軽に「閲覧」 複製・印刷は不可能産経新聞

 東京都の千代田区立千代田図書館が手がける全国唯一の「Web(ウェブ)図書館」が注目を集めている。インターネット経由で書籍データを自宅などのパソコンにダウンロードして読める画期的なサービス。利用者は一年中、24時間いつでも“本”の貸し出しと返却をパソコン上で行うことができ、わざわざ図書館に足を運ぶ手間が省けるのが利点だ。電子図書の著作権保護技術がサービスを可能にし、Web図書館の導入を検討する図書館も複数出てきた。(柳原一哉)
 千代田図書館は全国に先駆け昨年11月、Web図書館を開設した。22の出版社の3150タイトルを用意し、同じタイトルを3冊分ずつそろえる。利用者は一度に5冊分、最長14日間、書籍データをネット経由でパソコンに受信し、マウス操作で1ページずつめくるように読むことができる。メモの書き込みも可能。視覚障害者や高齢者に配慮し、音声による読み上げ機能もある。何より図書館に行く必要がないため、外出が困難な人も蔵書の閲覧が可能になった点は大きな利点だ。
 現在、利用登録者数は約200人、貸し出し冊数は約1300冊。対象は区在住者限定で始まったが、今月から在勤・在学者にも拡大。蔵書は年3000タイトルずつ増やす計画だ。
 Web図書館の開設に踏み切ったのは図書館の移転に伴い、15万冊の蔵書の保管場所作りに悩んだため。「書籍を電子化していけば、将来的な省スペースにつながると考えた」という。
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 サービスを支えているのは、IT企業「アイネオ」(同区)の著作権保護技術だ。書籍データを暗号処理し、利用者がアクセスする際の認証を厳格化。認証が済むと暗号が解けて読めるようになる仕組みになっている。また、貸し出し期限を過ぎるとデータはパソコンから自動的に消去され、貸し出し期間中の複製・印刷も不可能になっている。
 蔵書の保管場所の問題は都市部の公共図書館に共通する悩みで、アイネオの竹井弘樹取締役は「複数の問い合わせがあり、Web図書館の将来的な導入を考えてもらっている。初期投資は約1000万円で、高い壁ではない」と話す。
 図書館の本来の役割は貴重な書籍を持ち合う「知の共有」。だが、パソコン利用の得手・不得手により生まれる情報格差は今後、一層拡大すると予想され、竹井取締役は「著作権を守りながら公共図書館が電子書籍を貸し出せるようにすることは、格差の解消を促し、知の共有を将来も担保できる」と強調する。
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 では、出版社側に抵抗感はないのか。22社のうち小学館ネットメディアセンターの岩本敏ゼネラル・マネジャーは「もともと図書館では書籍を回し読みするので、出版社としては(図書館のシステムは)痛し痒(かゆ)しの存在」としたうえで、「ネットは敵ではなく新たな(表現の)場ととらえる」と話す。
 また、「不正複製対策など著作権保護が厳正に行われれば、貸し出された書籍が何度も回読されるのは文化的な貢献だ。無制限な貸し出しではなく、同じタイトルの電子書籍を3冊分、紙の書籍と同額で図書館に購入してもらい、その範囲内での貸し出しなら問題はなく、著作権者の了解を得て書籍データ提供を決めた」とも。
 日本電子出版協会によると、電子書籍市場は約10億円(平成14年度)から約182億円(18年度)と、急速に拡大している。今後も拡大が期待される分野だけに、岩本ゼネラル・マネジャーも「Web図書館の動向を見ながら、ネット経由でどんな書籍が、どのような人に読まれるかを見極めたい」と狙いを明かす。
 竹井取締役はまた、「アイネオは、紙の書籍と電子書籍の双方をそろえる『ハイブリッド図書館』を提案している。Web図書館を利用すれば、今度は紙の書籍も手に取ってみようと思ってくれるのでは」と波及効果への期待も寄せている。

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