記事登録
2008年07月03日(木) 07時28分

エビ投資詐欺 初めの高配当で信用東京新聞

 フィリピンのエビ養殖話で集めた額は約八百五十億円、被害者は全都道府県の約三万五千人に上るという。二日、警視庁などの合同捜査本部が投資会社「ワールドオーシャンファーム」会長の黒岩勇容疑者(59)らを逮捕した巨額詐欺事件。マルチ商法の手口を取り入れた巧みな仕掛けや話術で急速に出資者を増やしたと関係者は指摘する。「お金を返して」「厳罰を願う」−。出資者からは、やりきれない憤りの声が上がった。

 「初めは配当が振り込まれ、すっかり信用した」。四千万円を出資した静岡県東部の主婦(59)は結局、千八百万円の損失を出した。「家を新築する夢も消えた」とうなだれる。

 主婦がワールド社を知ったのは二〇〇六年十月。知人に十日ごとの配当金を記した預金通帳を見せられ、「元本保証だから大丈夫。人を紹介すればお金ももらえる」と説明された。「手狭になった自宅の新築資金に」と夫と二人で入会した。

 当初こそ配当があったが、〇七年一月に突然途絶えた。それでもワールド社の担当者が「七月には返却する」と繰り返す言葉を信じた。その七月、同社の捜索に警視庁が着手、被害に気付いた。「お金を返してほしい」。切実に訴えている。

 東京都練馬区の男性会社員(25)は「東京や神奈川のセミナーに参加し、熱気に押されるように出資した。今は後悔しきり」と話す。二千五百万円を出資して戻ったのは三百万円ほど。フィリピンの養殖場を実際に見ていないという不安もあったが、ワールド社が不動産事業も手がけていると聞かされ、資金を預けたままに。「黒岩容疑者をはじめ、幹部には厳罰が下ることを願う」と憤る。

 「いつまで高配当が続くのか不思議に思った」と振り返るのは沖縄県の無職の男性(61)。黒岩容疑者が財団法人「日本奉仕会」(東京都江東区)の理事長に就任したと聞き、「故吉田茂元首相が理事長を務めた由緒ある団体だから、まともな会社だと信じ込まされた。腹が立つし、情けない」とこぼした。

■黒岩容疑者 巧妙マルチのプロ

 逮捕されたワールドオーシャンファーム会長の黒岩勇容疑者は、連鎖販売取引(マルチ商法)に深くかかわり、資金集めのノウハウを培っていた。「マルチのプロ」と呼ぶ人もいたという。

 警視庁の調べや関係者の証言によると、黒岩容疑者は高校卒業後、広島県などで会社勤めを経験。一九九〇年代後半、知人と共同で、衣料品販売会社「ユーゼン」(東京都台東区)の経営に参画した。ブランド品を購入して会員になった人が、新会員を勧誘するとマージンが得られる方式で会員を増やすマルチ商法にかかわった。

 九九年には、自らマルチ商法の健康食品販売会社「アイエーエスプロデュース」(IAS、港区)を設立。「会社に投資すれば一年で二倍になる」との触れ込みで、約二万人から約四百億円を集めたとされたが、二〇〇二年に同社を解散。被害者の一部は広島県警に詐欺容疑などで告訴したが、黒岩容疑者はフィリピンに逃亡した後で、捜査は進展しなかった。

 合同捜査本部は黒岩容疑者が「ユーゼン」と「IAS」での人脈やノウハウを生かし、ワールド社を設立したとみている。

 黒岩容疑者がエビ養殖詐欺に本格的に乗り出したのは〇五年ごろ。出資額に応じて会員をピラミッド型に分類。各地でセミナーや研修会を開き、「必ずもうかる」などと言って投資をあおった。

 捜査幹部は「頭の回転が速いプロの詐欺師。それでいて用心深く、信用していたのは自分の息子ぐらいだったのではないか」と分析している。 (山田雄一郎)

(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008070390072400.html?ref=rank