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2008年07月02日(水) 17時34分

中国の対日政策形成、ナショナリズムが主要因 米研究所長インタビュー産経新聞

 【ワシントン=古森義久】中国のナショナリズム研究を専門とする米国オクラホマ大学「米中問題研究所」のピーター・グリース所長は産経新聞のインタビューに応じ、中国の対日政策でナショナリズムが果たす役割などについての見解を語った。一問一答は次のとおり。

−−中国のナショナリズムをどう特徴づけるか
 「ナショナリズムとは一般に国民が自国に対して抱く帰属と支持の意識を指すが、中国の場合、非常に特殊だ。民族文化、とくに漢民族の血が基盤となる。文化面では中国の古い文明への誇りが主であり、近年はそこに歴史上の屈辱という要素からの被害者意識が加えられた。その被害者意識からの怒りが日本にぶつけられるのだといえる」

−−そのナショナリズムは中国の日本への態度にどう影響しているのか
 「中国の対日政策形成では不運なことにナショナリズムが主要因のひとつとなってしまった。これは日中両国にとっても、北東アジアの平和や安定にとっても好ましくない。1990年代までは中国では日本に対する歴史認識でも『中国共産党の指導で日本の帝国主義者を打破した』という態度で、中国側の勝利やヒロイズムの強調が主だった。ところが95年ごろから愛国主義教育の開始の下、中国側の歴史教科書の書き換え、第二次大戦の新しい解釈、南京虐殺の新議論などにより、対日認識も変わってきた。日本は中国文化の長年の受益者なのに恩義を忘れ、日清戦争で中国を破り、その後も侵略を続けたという歴史解釈が広められた。日本側の残虐性や不公正が宣伝され、一般中国人の怒りをあおり、現代の中国側の反日感情の基盤となっていった。この感情は永続性が強い。こうした点では中国側の対日感情は他の外国に対する感情とは非常に異なるのだ」

−−中国当局が自国民の反日感情を強め、それを対日政策での道具にもするということか
 「中国当局は確かに国民の反日感情を日本との外交やビジネスに利用することも多い。歴史カードにもよく使う。だが反日感情は上からだけでなく、国民一般という意味の下からボトムアップの形で盛り上がった部分もある。南京虐殺の記念館建設は地元住民の要求が多かったともいう。だから国民の反日感情が政府に本来、望んだよりも強硬な対日姿勢をとらせることもある。2005年春の反日デモの際もそうだった」

−−中国共産党の統治の正当性を示すために自国民に日本への厳しい態度を保たせるという指摘もあるが
 「わが党こそが日本の軍国主義勢力を倒し中国を解放したが、日本はまた軍国主義を復活させる恐れがあり、わが党の統治が続かねばならないという『正当性』といえるかもしれない。ただ反日感情には党の思惑どおりにならない部分もある。小泉政権時代、中国当局が小泉純一郎首相へのひどい非難を広め、国民一般がそれでさらにひどい小泉観を抱き、今度はその一般の激しい悪感情のため指導者が小泉首相と会談したくてもできなくなってしまったのはその実例だ」

−−日中関係のいまの状況をどうみるか。
 「表面では確かに改善されたようにみえる。しかし、基本はあまり変わっていないと思う。過去数年に起きた民間レベルのちょっとした衝突がまた起きれば、中国側で反日デモが起きても不思議ではない」

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