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2008年07月02日(水) 00時00分

(2)タワー効果下町に呼び込め読売新聞

タワー着工が決まり、向島橘銀座商店街を再訪した東京富士大の学生たちと語り合う大和さん(左から3人目)=6月25日、岩波友紀撮影

 狭い路地。買い物袋を提げたお年寄りたちが自転車で往復する。「ここは下町人情、キラキラ橘商店街」。街頭スピーカーのアナウンスがのどかに響く。

 東京富士大(新宿区)の経営学部の学生約10人が、墨田区京島の向島橘銀座商店街を訪れたのは昨年8月のこと。新タワー「東京スカイツリー」が建つ街の活性化策を考えようという目的だった。初めて街に足を踏み入れた学生たちは、昭和の風景が色濃く残る商店街のとりこになった。どら焼きやカステラなどの店が並ぶ街に来た客に、どこから来たのか、どんな店が好きかなどを聞き回った。

 こうした現地調査を踏まえて練り上げたのが「甘味の城プロジェクト」。地元が誇る和菓子と洋菓子を一堂に集めた販売所をタワーから200メートル以内の場所に設置し、菓子のお店の場所や由来を書いたパンフを置く。販売所に来た観光客を、本店のある商店街に呼び込もうという仕掛けだ。

 同大3年の斎田祥さん(22)は「墨田に残る下町の魅力を観光客に気付かせる仕組みを作るべきだと思った」と話す。このアイデアは、東京商工会議所が主催するイベントで「墨田区長賞」を獲得した。

     ◎

 「皆さん、サービスの中身に知恵を貸して下さい」

 学生たちを夢中にさせた向島橘銀座商店街の大和和道さん(54)は先月16日、東京商工会議所墨田支部の会合で、様々な業種の代表に呼びかけた。大和さんは区内五つの商店街が進める電子マネー化計画の旗振り役だ。

 多くの観光客は電車でタワーに来る。PASMO(パスモ)やSuica(スイカ)の端末を店舗に置いて、観光客が気軽に買い物を楽しめるようにし、さらに、そこに新しい付加価値をつけられないかと知恵を絞る。今月にも電子マネー化計画を担う株式会社「スミポ」を設立し、鉄道会社とも交渉していくという。

 “先輩”の国際観光都市・浅草を抱える台東区との連携も始まった。両区はタワー誘致を巡って火花を散らした仲だが、両区の商店街連合会は昨年3月から会合を重ね、共催イベントや地域の宣伝方法などを検討。墨田区商店街連合会側は「殻に閉じこもらず、浅草の観光対策を学ぶなど互いの良さを引き出し合いたい」としている。

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 ただ、タワーが既存の商店街にどれだけの効果をもたらすかは未知数だ。

 タワーの足元には、宿泊施設などが入る地上32階のビルや店舗、ミュージアムなどからなる新しい“街”が誕生する。物販・飲食店の面積だけで東京ドームの約1・5倍の約6万8000平方メートル。だが、どんな店が入居するかはオープン直前まで分からないという。

 永山利和・日大教授(中小企業論)は「テナントの構成次第では観光客が施設の外で買い物をしなくなる」と指摘。墨田区商店街連合会の熊谷恵二会長も「タワー完成までに寂れた商店街を魅力あるものに変えたいが、新しい商業施設の姿が見えてこないと準備がしづらい」と嘆く。

 「タワーの街」のイメージが見えない中、新しい街づくりへの模索が続く。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231214843521989_02/news/20080702-OYT8T00135.htm