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2008年07月01日(火) 00時00分

(1) 地元経済 上昇の青写真読売新聞

「北斎の街」PR、向島「花街」復活
タワーが建つ墨田区押上地区の建設予定地。手前に流れるの北十間川には船着き場や遊歩道が整備される予定だ

  日本のシンボル「富士山」を描いた江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎。その生誕地・墨田区で、約20年前から塩漬けになっていたプロジェクトが動き始めたのは、タワー誘致が決まった2006年3月だった。

 「北斎館」(仮称)建設構想。区が所蔵する約1400点の北斎作品などを展示する美術館だ。その作品の価値は購入価格にして約15億円に上るが、ずっとお蔵入りとなっていた。

 タワー建設は、北斎という“資産”を活用できずにいた区に大きなチャンスをもたらした。藤田悟・文化振興課長は「北斎は海外での人気が圧倒的に高い。タワーに来る外国人客を美術館に呼び込み、地元商店の包装紙を北斎の浮世絵で統一するなど『北斎の街』をアピールできれば、浅草に劣らない国際観光都市になる」と、期待を込める。

 開館はタワーが完成する11年度に合わせた。学術目的に限って使用を認めていた北斎作品の画像データも商業利用できるようにした。建設地は国技館などがある両国寄りの地点。タワーからの観光客を区内で周遊させようという戦略だ。

 区は、タワーの下を東西に流れる北十間川も整備する。コンクリートの護岸に挟まれた殺風景な川に船着き場や遊歩道をつくり、和船などの観光船を運航させて「東洋のベネチア」を目指す。夢は尽きない。

     ◎

 民間にもタワー効果を狙った動きが出始めた。

 都内最大の花街、向島。「タワー開業を機に、かつてのにぎわいを復活させたい」と、芸者衆らが今年3月、格安料金で唄(うた)や踊りを披露するイベントを開いた。料亭「きよし」の若おかみ、小林綾子さんは「タワーに来る観光客に楽しんでもらうイベントを企画し、コアなファンを増やしたい」と意気込む。“お得意様”が多く、これまで案内図さえなかったが、タワー建設決定後、初めて「向島花街マップ」も作製された。

 隅田川を挟んで隣接する松屋浅草店は「地域唯一の百貨店としてアピールしていきたい」と、タワー開業に合わせてレストラン改装などを計画中。隅田川花火大会の眺望が自慢の浅草ビューホテルも「タワーの眺望でも有数のホテルになる」とし、「タワー側の客室に人気が集まるようなら、眺望に応じて料金を変える必要があるかも」と話す。

     ◎

 「最近、ファストフード店がタワー周辺各地で出店地を探しているようだ」。墨田区のある幹部は話す。地元不動産業者も「タワー建設が決まった後、業者が周辺の土地を相場の2倍以上で買おうとする現象もみられた」と言う。サブプライム問題で今は沈静化したが、再び土地買収が活発化する可能性もある。

 「リクルート マンションズ首都圏版」の山下伸介編集長は、「東京タワーの見えるマンションが人気があるのと同様のことが、新タワーでも起こるかもしれない」と指摘する。

 墨田区の試算では、タワーを訪れる観光客は年間2000万人を超え、開業後の経済波及効果は年間880億円とされる。様々な業界が、タワー開業に照準を定め、動き始めている。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231214843521989_02/news/20080701-OYT8T00108.htm