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2008年07月01日(火) 00時00分

<3>多重債務で負の連鎖読売新聞

 ◆「必ず解決できる」専門家強調
消費者金融に50万円を借りた多重債務者の明細書。毎月、利息も含め2万円返済した後、限度額まで借りることを繰り返している

 電気を止められた真っ暗なリビングに、携帯電話のライトだけが点滅していた。酒と睡眠薬を飲んだ母(54)の目はうつろだった。小林市の男性(35)は、母の変わり果てた姿が忘れられない。

 「2000円ほど貸してほしい」。母が男性に最初に借金を頼んできたのは10年ほど前。母は看護師で収入も安定し、自宅を新築したばかりだったが、すでに多重債務に陥っていた。休日に花を植える優しい母の面影は、借金がかさむごとに失われた。

 昨年5月6日。母の勤務先の病院から無断欠勤していると連絡があった。家に行って名前を呼んでも返事がない。不安が胸をよぎった。母はトイレで帰らぬ人となっていた。

 母の死後、大量の消費者金融の明細書が見つかった。借金総額は10社で計320万円。親族や職場の同僚、患者からも借金を重ねていた。原因はわからないままだが、男性は思う。「母は、借金で壊れてしまった」

 民間の信用情報機関「テラネット」によると、宮崎は2007年の人口10万あたりの自己破産件数は145件で全国7位。99年には165件で全国1位だった。

 NPO法人「宮崎自殺防止センター」の弓場登志男事務局長によると、経済苦が“負の連鎖”を招く。「リストラや生活苦で借金を重ね、多重債務となり、家庭崩壊、うつ病を引き起こす」。追い込まれた先にあるのが自殺だ。同センターにある電話相談の約3割に経済問題が絡んでいる。

 深刻なのが多重債務だ。県内の自営業男性(58)は10年前、取引先の倒産をきっかけに“泥沼”にはまった。150万円が回収不能になり、商工ローンや消費者金融から借り入れを重ねた。借金で借金を返す生活が6年続いた末、脳こうそくで倒れた。1年後に自殺を図った。首つりや飛び降りを繰り返し、今も入院している。

 専門家は「多重債務は必ず解決できる」と強調する。違法金利分の返還で借金が帳消しになるばかりか、過払い金が戻ってくるケースも少なくない。

 西諸県地域の50歳代の夫婦は20年以上、消費者金融を利用。ついには法外な金利を取り立てる闇金に手を出し、司法書士に駆け込んだ。訴訟と任意整理で、戻ってきた過払い金は1000万円に及んだ。

 こうした整理には専門家の知識が必要だ。小林市の小堀正己司法書士は「専門家が介在しなければ、ほとんどが多重債務を繰り返す」と指摘する。身内に相談しても、後ろめたさや恥ずかしさから、借金の額を少なめに言ってしまう。残った借金が膨らみ、誰にも相談できず、命を絶つ人が少なくない。

 小堀司法書士が現在担当している事案だけで、相談を受ける前に多重債務者が自殺したケースが3件ある。

 「人生はやり直せる。1人で悩む必要はない」

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/miyazaki/feature/miyazaki1218092264157_02/news/20080807-OYT8T00524.htm