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2008年06月30日(月) 14時21分

雇用環境も福祉機能も欧米以下!日本は世界で一番冷たい格差社会ダイヤモンド・オンライン

 日本の格差問題も欧米に比べればまだまし——。そう考える人は多いことだろう。しかし、その考え自体が間違っていると説く学者が実は米国にいる。

日本こそが先進国の中で一番冷たい格差社会であると断言するハーバード大学のマルガリータ・エステベス・アベ教授(政治学部)だ。
 
アメリカは確かに国家の福祉機能が小さく、利潤追求と競争の市場原理を重視している。だが、エステベス教授は「市場原理に全く従わない民間非営利セクターが大きな力を持ち、福祉機能、すなわち社会を維持する役割を担っている点が軽視されている」と強調する。

たとえば、「非営利団体が市場で失敗した人や貧困者などの救済を行い、ホームレスのシェルター(無料宿泊所)を運営したり、食事や古着を提供したりしている。忙しい勉強の合間にボランティアで恵まれない子供たちに勉強を教える学生や、社会貢献活動に熱心なビジネスパーソンも数え切れぬほどいる」というわけだ。

 対して、「日本はアメリカと似て国家の福祉機能が小さく、また自助努力が大切だと考える人が多いが、企業や社会にはじき出された人を守るシステムが弱く、家族に頼らなければならない」。経済的に余裕のある家庭ならばよいが、「問題は家庭内で対処できない時にどうするかだ」と説く。

 意外に聞えるだろうが、「生活保護の受給条件も日本の方が厳しい」という。確かに、「米国で問われるのは個人の受給資格のみ」。だが日本では家族の所得なども細かく審査される。

 エステベス教授は、大学教授だった知人のケースに触れて、「彼は裕福だが、息子は生活保護を受けている。日本だったら、あり得ない話だ」と語る。

 ちなみに、欧州の先進国はどうか、エステベス教授は、「多くは国家の福祉機能が大きく、しかも市場で失敗するのは個人だけの責任ではないので、国家が助けるのは当然だと考える人が多い」と指摘する。こうしてアメリカとヨーロッパ、日本を比べてみると、「日本が一番冷たい社会のように思える」というわけだ。

 確かに、正規・非正規社員の賃金格差の問題にしても、「同じ仕事をしながら賃金に大きな差が出ることはアメリカではあり得ない」。もしあれば明らかに組織的な差別であり、企業は訴訟を起こされて何十億円もの莫大な賠償金を強いられるからだ。このことに関して、エステベス教授は、「日本企業ではインサイダー(内輪の人間、つまり正規社員)の雇用保護が強いので、アウトサイダーの非正規社員が不利益を被っている」と批判する。

皮肉なことだが、「日本が本当に市場原理を導入していればこのようなことは起こらない」のかもしれない。

(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)


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