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2008年06月30日(月) 16時52分

オバマ・クリントン共同演説に見た民主主義の“本物感”オーマイニュース

 6月27日(金曜)、ニューハンプシャー州の小さな町ユニティで、民主党の大統領候補となったバラク・オバマ氏と、数週間前までその座を争っていたヒラリー・クリントン氏が共同の演説会をした。このことはテレビでも報道され、新聞でも抱き合った2人の大きな写真が掲載された。

 ついこの間まで相手の弱点をあげつらうような演説をし、自分こそ真の大統領候補であると主張してきた2人が、合同の集会を開き、これから一致協力して共和党候補のマケイン氏と戦う決意を示すなんて、ちょっとわれわれには想像しがたいものがある。

 テレビの報道や新聞の解説を読み、計算づくの選挙目当てのパフォーマンスだろうと予想した。しかし何はともあれ実際の演説を聞かなくては、と思って、ニューヨーク・タイムズ紙のサイトで40分にわたる彼らの演説を聞いてみた。

 はじめにクリントン氏が半分以上の時間を使って演説した。彼女の言葉には負けた悔しさとか辛さとかはみじんも無く、以前のような明るさと聡明な口調の力強い演説であった。これまでのキャンペーンで語ったことを否定するのではなく、オバマ氏とは別々のスタートを切ったけれども目指すところは同じであって、これからは民主党がホワイト・ハウスを奪い返すために共に戦うのだ、と語った。

 同時に、これまで自分を支持・支援してくれた人たちに対して、感謝とともに今後はオバマ氏を支持・支援してほしい、それがすなわち自分への支持支援になることを強調した。彼女の言葉には、長いキャンペーンの間に溝ができた民主党員と支持者をなんとか unite する(結びつける)方向に引き寄せたい気持が溢れていた。

 後半を受け持ったオバマ氏は、そばに立っているクリントン氏を意識したせいか、出だしはやや低調だった。が、徐々に調子を上げ、いつもの聴衆を圧倒するようなオバマ調で演説を終えた。彼ももちろんヒラリーの功績を称えて、自分が大統領になったら彼女が得意とする医療保険や労働問題を取り上げ改善すると明言した。

 情報通の新聞記者やテレビのコメンテーターにとっては、彼らの言葉の裏の裏が見え、ああいう演説は空々しい、とうがった見方をするのかもしれない。だが、私にはそうは見えなかった。クリントン氏もオバマ氏も真剣に語っていると感じられた。彼らは自分の哲学、自分の信念を語っていた。そして目の前の聴衆と、テレビの前で見る視聴者に、その意義を分かってもらおうと真剣に語っていた。

 そしてこのユニティという町の小学校に集まった3000人ほどの人は、その言葉の1つ1つに、拍手したり、口笛を吹いたり、小旗を振ったり、ときには落胆の唸り声を出したりして、ちゃんと反応していた。つい数週間前まで敵味方のように争っていた運動員たちが同じ会場に座り、ともに双方の演説に耳を傾けている。これが民主主義が草の根にまで根付いている証拠であろう。

 これは決して、当たり前の姿ではない。アフリカのジンバブエでは大統領の決選投票をやるとかやらないとかで、逮捕者が出るような不可解不透明な状況が続いている。オリンピックの聖火リレーですら自由に走れない国もある。一部の首脳のみがオイルマネーによる冨を独占している国もある。

 そういう自由の無い国に比べれば、アメリカ合衆国とは何というすばらしい国であることか! クリントン、オバマ両氏が口を揃えてアメリカを讃える気持がわかる気がする。ブッシュ政権がダメにしたとされるアメリカも、今度 Change(変化)が起これば新しい国に変るのではないかと思わせる。

 翻って日本はどうか。せっかくこのすばらしい国と同盟を組みながら、かの国の根本をなす真の民主主義が根付いているか。すばらしい憲法を持っていながら、それを実行できているか。文字面の解釈で「憲法上許されるか否か」だけを問題にしていないか……。

 そんな彼我の差を考えさせられた演説会だった。

(記者:堀 素子)

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