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2008年06月29日(日) 11時01分

諫早湾干拓に見る官僚の「杜撰」と「無責任」オーマイニュース

 6月27日、佐賀地裁の前で喜び合う漁民の姿がテレビの画面に映った。諫早湾干拓事業による有明海の漁業被害の発生との「因果関係」が争われた訴訟で、漁民側が勝訴したのだ。

 下級審とはいえ、国を相手取った堤防撤去や常時開門を求める漁民の訴えは「排水門開放5年」の環境調査を命じる判決を勝ち取った。因果関係を調査しなかった国の怠慢に風穴を明けることになった当然の結果だろう。

 思えば2005年5月、福岡高裁が「因果関係を認めるに足るデータや資料の不在」を理由として農民側による干拓工事差し止めを求める仮処分申請を退けたとき、あるインターネット新聞に「データや資料がないからこそ調査の為に開門すべきではないのか」という内容の記事を投稿したことがある。

 この国と漁業者との長期にわたる法廷闘争は、いろんなことが明るみになってくる。

 事業内容は米作地から畑、工業用地、防災へと変わってきたとはいえ、50年前の計画を頑なに継続し、その事業費も倍の2500億円を超えようとしている。今年4月から営農が始まったが、まだ事業は完了はしていないという。構想が長期化すると公共事業そのものに批判が出てくる。

 官僚の計画変更に対する強い抵抗が伺われる。

 今までに3回にわたり開門が提案された。2001年12月、ノリ第三者委員会は開門を提言したが、農水省OBらによる検討委員会はこれを否定。2004年に佐賀地裁は「第三者委員会の提言が実施されていない」と指摘、2005年5月の福岡高裁は「中・長期開門調査の研究を実施する責を負う」と主張している。今回の判決も農水省に「因果関係のないこと」を実証することを求めた。

 しかし、農水省は相変わらず「費用がかかり、予期せぬ被害が出るかも知れない」と控訴する意向である。下級審では敗訴しても、高裁、最高裁の上級審では勝訴する過去の実績にも期待しているようだ。

 こういう公共事業には漁業補償が支払われるはずであるが、調べてみると支払いはされたものの見解が違っているようだ。漁民側は工事中の補償と見て、その後の環境被害による補償は含まれていないと言う。計画の推進を急ぐ余り、当初の交渉時の曖昧な妥協が問題を拗らせている。

 いつものことであるが、漁民と官僚の立場の違いが紛争を大きくしている。どう見ても漁業者側の主張が理屈に合っている。

 漁業者は自ら生活権がかかっているのでその分主張、訴えも真剣であるが、農水省側は事業費は税金、事業がどうなれ責任をとる者はいない。直接自らの生活に係わるものではないため、「無責任さ」が生まれてくる。かつ役人特有の「他からの批判に対する抵抗」も強い。縮小に向けた見直しは、彼らにすれば御法度なのだ。

 国の公共事業の正当性を争う上で今回の判決は画期的な判決である。上級審は国よりの判断を下すのが大方の見方であるが、農水省は控訴を諦め、「因果関係究明」のための開門、研究調査をやってほしいものである。

 そして「食糧などの生産、環境保全への貢献度が高いのは漁場か農地か」を考えてみたいものである。

(記者:矢本 真人)

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