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2008年06月29日(日) 00時00分

親との「確執」が「憎しみ」に読売新聞

福田俊一さん 58
福田俊一さん 58 淀屋橋心理療法センター(大阪府豊中市)所長。医師。心の問題に対し家族ぐるみでかかわる「家族療法」を実践する。

 ——加藤智大(ともひろ)容疑者(25)は子ども時代、親に干渉されたことを恨むような供述をしている

 子どもによる家庭内暴力の相談をよく受けるが、そうした家庭では、親が勉強や生活について口うるさく干渉していることが多い。親の過干渉はそう珍しいことではないのだが、ボタンの掛け違いが積み重なっていくと、不満が憎しみへと変化してしまうことはある。加藤容疑者も同じなのかもしれない。

 ——携帯サイトにも延々と親への不満が書き込まれている。「25歳にもなってなぜ」というのが世間一般の感覚だと思うが

 私のところに相談に来るケースでも、30歳代、40歳代になっても親との問題を抱えている人が少なくない。年齢に関係なく、関係修復のきっかけをつかめなければいつまでも親との確執を抱き続ける。加藤容疑者もタイミングをつかめないまま、長い時間をかけて、親を憎む心が凝り固まってしまったのではないか。

 ——事件の根はどこにあるのだろうか

 価値観の違いから生じる親子の対立など思春期の問題を一緒に乗り越えられなかったところから始まっているのではないか。加藤容疑者が携帯サイトに書き込んだ「親に捨てられた」などの言葉からは、大人になりきれずに親に強くわだかまりを持ち続けている様子が感じられる。他者とうまくかかわれないのは、友人や教師との関係もそうだが、家族間で共感したり互いに認め合ったりする経験が乏しかったからではないだろうか。

 ——家族の結びつきが弱まりつつある中、どんな解決策があるだろうか

 たとえ家庭内でそうした経験が積めなくても、一定のコミュニケーション能力を磨けるように、学校教育などでも、自分の感情をうまく表現するトレーニングを取り入れる必要があると思う。

 事件や社会問題には様々な〈顔〉があります。新企画「アングル」では、各方面の識者に多角的な視点から分析してもらい、読者の方々に考えるヒントを提供できれば、と考えています。第一弾は、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。逮捕された加藤智大容疑者(25)の心理や事件の背景を読み解いてもらいます。

http://www.yomiuri.co.jp/national/angle/na_an20080629.htm