記事登録
2008年06月28日(土) 06時00分

生活保護 ずさん支給  深 谷  元組員夫婦逮捕読売新聞

市、不正見抜けず 5年分 1800万円返還請求

 深谷市の暴力団元組員夫婦が27日、同市から生活保護費(医療扶助)を不正受給していたとして、生活保護法違反の疑いで県警に逮捕された。架空請求による医療扶助の不正受給は約560万円に上るとみられ、市は5年間に支給した約1800万円の生活保護費の返還を求めている。税金が暴力団員に不正にたれ流された背景には、支給した市側のずさんな対応がいくつもあったが、市幹部は記者会見で「手続きに問題はなかった」と繰り返した。

任意同行を求められる崔容疑者
車内捜索に立ち会う育代容疑者

      ◆架空請求

 逮捕されたのは、深谷市上野台、指定暴力団稲川会系元組員の韓国人、無職崔鳳海(60)と妻の育代(44)の両容疑者。

 県警の発表によると、両容疑者は群馬県北部の接骨院に1か月で10回通院してマッサージ施術を受けたとするニセの申請書などを深谷市に提出。2007年10月下旬、タクシー代や電車代などの移送(交通)費と施術費の名目で計14万4000円の医療扶助を不正に受給した疑い。

 崔容疑者は「間違いない」と容疑を認めているが、育代容疑者は「夫に頼まれて市役所に行っただけ」と否認しているという。

 捜査関係者によると、崔容疑者らは深谷市内のタクシー会社の白紙領収書に料金を書き込んだり、1度だけ訪れた群馬県の接骨院でマッサージベッドの使用代「300円」の領収書をもとに偽造したりして市に提出。市によると、こうした手口による不正受給は03年6月〜08年2月で計約560万円に上る。

     ◆事故が契機

 崔容疑者は02年5月、熊谷市内で車同士の交通事故に遭い、同年11月に身体障害2級と認定された。翌03年1月には「事故で体に障害を負い働けなくなった」などとして市に生活保護を申請し、受給が始まった。

 同年3月に事故の保険金約2200万円を受け取り、生活保護の対象から外れたが、市には申告せず、08年2月まで計約1940万円の生活保護費を受け取っていた。

 不正受給は07年10月、深谷市に対する県の監査で発覚した。市は今年2月、県警に刑事告発。5月には時効にかからない03年6月以降分の計約1800万円の返還を通知した。崔容疑者は告発後、組から破門され、いまだに返還していない。

       ◆恫喝も

 告発を受けた県警は当初、刑罰がより重い詐欺での立件を目指したが、捜査関係者によると、担当の市職員らが「(崔容疑者らの)申請を不正ではないかと疑問に思っていたが、恐ろしくて指導を徹底できなかった」などと話したため、詐欺での立件は見送られた。

 27日午前、深谷市役所で記者会見した茂呂敏行・市福祉事務所長(58)は「市は不正受給とは全く認識していなかった」と否定。崔容疑者の不正を見抜けなかった点について、「職員らは激しい恫喝(どうかつ)を受けており、やむを得なかった」と述べた。しかし、崔容疑者らは普段から国産高級車を乗り回し、ブランド品を身につけて出歩くなど、派手な生活ぶりは近所でも知られていた。

 施術費は本来、市が施術者(医療機関)に支払うものが、代々の担当職員は崔容疑者から「自分が立て替えた」と言われ、毎月自宅を訪れて現金を手渡していたという。市は、崔容疑者が提出した申請書のうち「医師の同意欄」が空欄になっているのに書類を受理。接骨院にも受診の有無を確認していなかった。

 県警は、こうした市側の対応が不正受給を容易にしたとみているが、茂呂所長は「現段階で問題があったとは思っていない。我々はあくまで被害者であり、市の瑕疵(かし)が原因ではない」とした。

 市は16日に設置した内部調査委員会のほか、第三者委員会でも責任の所在を検討する。

     ◇

 県とさいたま市によると、06年度に県内で判明した生活保護費の不正受給は255件計約2億2700万円、1件平均約89万円で、いずれも増加傾向にある。刑事告発・告訴に至ったのは今回のケースが県内初。

  ■「被害者」は県民 市民だ

 疑問なのは、暴力団組員をずっと「信用」(市幹部)し、必要な確認を怠った深谷市の対応だ。市はマッサージ施術を必要と診断した医師への調査や施術内容の確認などが必要だったが、担当者は確認の電話一本していなかった。

 市幹部は「市は被害者」と繰り返した。だが、ある捜査関係者は「市側のずさんな対応は不正受給の“共犯”と言ってもよく、市にも重い責任がある」と指摘する。

 暴力団員への生活保護費支給について、厚生労働省は2006年3月、申請を原則却下するよう各自治体に通知している。深谷市と深谷署も07年4月、暴力団情報を共有するため協定を結んだが、市は今回、同署に一度も照会しなかった。

 真の被害者は、本当に困窮し適正な申請をしている多くの保護世帯と、納税者である県民・市民だ。内部調査にあたり、市は甘い認識を抜本から改める必要がある。(森田啓文)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/saitama/news/20080627-OYT8T00787.htm