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2008年06月27日(金) 16時34分

今さら止められない! 水面下で増える「成果主義」の形骸化ダイヤモンド・オンライン

 「おれの目はフシ穴じゃないぞ。君の仕事のやり方は認めない」

 成果主義制度を導入しているある中堅IT企業の社長は、声を荒げた。説教されたのは、協調性がなく仕事も不真面目という、評判の「フダ付き社員」だ。しかしこの社員、今期は予想以上に奮闘し、同僚を上回る評価を初めてもらった。ところが、社長がその社員を呼びつけて「待った」をかけたというのだ。

 結局この社員、高い評価を得たにもかかわらず、社長に怒られたあげく減給されてしまったというから無茶苦茶だ。仕事の過程を見ずに結果だけで評価する成果主義では、誰もが認める優秀な社員が毎回高い評価を得られるわけではない。たまたま意外な社員が高い評価を得ると、制度の運営者側が自信を失い、混乱してしまうのだ。

 実のところ、巷にはこんな企業が少なくないというから、驚きである。「成果主義が今やすっかり形骸化し、社員が活力を失うケースが水面下で増え続けている」(労働問題の専門家)。

 2000年以降、成果主義の問題点はすでに巷で広く論じられて来た。社員間で賃金・待遇格差が不自然に拡大したため、個人主義の蔓延による現場の混乱や、長時間労働が常態化したためだ。今や企業の「成果主義熱」はトーンダウンし、世間一般の興味も薄れている感がある。

 ところが、フタを開けてみれば、まだまだ混乱は終わっていない。これまでは、企業関係者が制度の建て直しに右往左往するケースが大半だった。それが、今や「成果主義を止めたい」という企業が続出する段階に移っているという。

 特に目立つのが、人心の荒廃による「ギスギス職場」の増加。2007年度に仕事のストレスで「うつ」などの精神病になり、労災を申請した社員は過去最高の約950人、実際の認定者は約270人に上った。そのうち、自殺を図って労災認定された社員も2年間で倍増し約80人となった。
厚生労働省は、「成果主義で心を病む社員が増えたのが原因」と分析している。

 そんな状況になっても止められない主な理由は、導入時の経営者や人事担当役員が目を光らせており、廃止を提案しずらいから。そのため、社内の士気が著しく低下している企業は多い。

 原燃料高に悩むあるメーカーでは、業績不振に陥った有能な社員を降格・減給したところ、「あの人が降格されるなら明日はわが身」と悲観する社員が続出。給料カットがやむを得ないなら、せめて全従業員の給料を公平にカットしてくれ」と組合が提案する事態になった。

 「部下の人事考課だけで日が暮れて仕事にならない。何年も人事部につきあったんだから、いい加減、本来の仕事に戻してくれ」——人事担当者に泣きつく管理職も多い。

 あるメーカーは人事部さえやる気を失っている。「部員の評価シートに書き込む評価コメントの雛形が社内に出回っており、管理職は毎回同じコメントをコピペして提出するだけ。人事部も読むのが面倒くさいので喜んでいる」

 社内のモチベーションアップ対策の効果に疑問符がつくケースも。「結束を図るため、新入社員全員を全寮制にした」「社員に合コンを奨励したところ、給料を前借りして合コンに励む社員が増えた」

 こんな有様では、制度自体がもはや不毛だ。個人の能力を公平に評価するという建前の成果主義には、理にかなった側面もある。しかし、「年齢に応じてスキルを積めば、より重要な仕事を任せられ、使える経費や給料が上がった年功序列制度は、そもそも合理的な報酬システムだった」(専門家)とも言える。企業は成果主義をきっぱり捨て去る勇気も必要なのである。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

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