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2008年06月27日(金) 00時00分

基礎からわかる「ダビング10」読売新聞

 デジタル放送番組のコピー制限を現在の1回から10回に増やす新ルール「ダビング10」が7月4日午前4時に始まる。番組の録画機会が増える北京五輪の開幕(8月8日)を控え、利用者にとっては便利になる。ダビング10の仕組みや、利用する際に気をつけることなどを紹介する。

仕組み…コピー10回まで

 デジタル放送には現在、「コピーワンス」という録画制限がかかっている。デジタル放送番組は音と映像の信号に加え、いったん録画した番組のコピーを1回(ワンス)しかできないよう、録画機器に指示する信号も一緒に送っているためだ。

 例えば、視聴者がハードディスク駆動装置(HDD)内蔵型のDVD録画機で番組を録画した場合、いったんデータをため込むHDDからDVDのディスクにコピーをすると、同時にHDDからはデータが消えてしまい、2枚目のコピーはできなくなる。

 この信号を切り替え、コピーを10回に増やす仕組みがダビング10だ。9回目まではHDD内にデータが残り、10回目のコピーに合わせて元のデータが消える。

 コピーワンスもダビング10も、コピー済みのDVDのディスクから別のディスクにコピーする「孫コピー」ができない点は同じだ。

 そもそも、デジタル放送にこうしたコピー制限がかかっているのは、コピーを何回繰り返しても画質や音質が劣化しにくい特徴があるからだ。

 2011年7月に終了するアナログ放送は、録画をすると画質が悪くなるので、不正コピーが大量に出回る心配はほとんどない。このためコピーワンスやダビング10とは関係なく、コピーに制限はない。

 一方、デジタル放送で自由なコピーを認めれば、もとの放送と同じ高画質のコピー品を大量に作ることができる。大量の不正コピーが出回れば、制作会社などに著作権料を支払う正規のソフト販売会社の売り上げが減るなど、業界全体に悪影響が広がり、結局は番組の質の低下を招きかねないとみられている。

 ただ、コピーワンスは、04年4月の導入当初から視聴者の反発を受けていた。コピーが1回だけでは、録画番組を保存したまま好きな場面だけを抜き出して編集したり、同じ番組のDVDを家族で持ち合ったり、といった使い方ができないからだ。

 さらに、DVDのディスクに傷があってコピーに失敗したのにHDDのデータも消えてしまった例や、コピー中に停電があってHDDにもDVDにもデータが残らなかった例など、電機メーカーへの苦情が相次いでいた。

 このため、情報通信審議会(総務相の諮問機関)は06年夏、コピーワンスを緩和する方針を表明。1年後の07年夏にダビング10導入を打ち出した。

 コピー回数を10回としたのは、夫婦と子ども1人が、それぞれDVD、携帯電話、携帯型音楽プレーヤーなど3種類の機器に番組を取り込んだ上で、なおHDD内にデータが残るという状況を想定したためだ。

夏商戦影響、家電業界は期待

7月4日の「ダビング10」解禁を控え、店頭でのPRも活発になっている(25日、ビッグカメラ有楽町店本館で)=横山就平撮影

 ダビング10のスタートが北京五輪に向けた夏商戦に間に合ったことで、家電業界は「好調に推移している録画機やテレビの販売が、さらに盛り上がる良い材料になる」(大手家電量販店)と期待している。古い機種からの買い替えも進むとみられ、各メーカーが今年から本格投入しているブルーレイ録画機を売り込むチャンスにもなりそうだ。店頭で目玉商品として値引きが広がる可能性もある。

 NHKや民放の地上波テレビ放送は、今はアナログとデジタル両方で流されているが、11年7月にはアナログ放送が終了する予定だ。しかしデジタル放送について、これまでコピーワンスの制限で、アナログに比べて不便だとの指摘もあった。その意味で、ダビング10は、地上波テレビ放送の完全デジタル化に向けた取り組みを後押しするとの見方もある。

 一方、ダビング10で高画質の映像コピーがしやすくなることで、DVDソフトの販売に影響が出る可能性を指摘する声もある。
対応機種はメーカーでばらつき

 ダビング10が利用できるHDD内蔵型録画機の発売時期はメーカーによって、異なる。最も早いものは06年秋に発売されている。このほか、HDDを内蔵したテレビやデジタル放送を録画できるパソコンも、新しいタイプは対応できる。対応できない古い機種は、今後もコピーワンスの制限がかかってしまう。

 解禁日以降に生産される製品は、初めからダビング10に対応するようになる。すでに出回っているダビング10対応製品は、購入時にはコピーワンスの制限がかかっているため、ダビング10を利用するにはソフトを更新する必要がある。

 このソフトは、放送局が流している映像・音声の信号と一緒に、特殊な信号の形で家庭の機器に送られてくる。このため、家庭ではDVD録画機の電源コードをつないでおけば、信号を自動的に受信し、15〜30分後にはダビング10ができるようになる。

 逆に気をつけなければならないのは、信号を受ける時にはダビング10対応にしたい機器のスイッチを切り、放送番組を見ないということだ。

 信号が送られる日時は録画機のメーカーごとに異なり、同じメーカーでも機種によって違う場合もある。7月4日の解禁日以降になってしまう機種もある。自分が持っている機種の信号がいつ送られるかは、メーカーに問い合わせたり、ホームページで確認したりする必要がある。

 ただメーカーによると、信号は早朝や深夜など時間をずらして何回も送られるため、通常の使い方をしていれば、あまり神経質になる必要はないという。

 信号を受信できずソフトを更新できなかった利用者への対応としては、ソフトの入ったDVDを郵送する案などが検討されている。

 パソコンの場合は、各メーカーのホームページからソフトを取り込む。

 ダビング10対応となるテレビ番組は、NHKと民放の地上デジタル放送、BSデジタル放送のすべての番組だ。

 一方、有料BSデジタル放送のWOWOWやスター・チャンネルは、解禁日以降もコピーワンスが続く。米ハリウッドの映画会社などから番組を購入する際の契約が、コピーワンスを条件としているためだ。CS放送のスカイパーフェクTVも、ダビング10に移行するのは一部のチャンネルにとどまる。

補償金巡り導入遅れる

 ダビング10は、もともと6月2日に始める予定だった。しかし、コピー回数を1回から10回に増やすにあたり、番組制作会社などの著作権者に新たな金銭の支払いが必要かどうかや、支払うとすればその金額と、どういう形にするかというところで著作権者側と機器メーカーが対立し、1か月余りもスタートが遅れた。

 結局、間に入った政府が出した案は、今でもデジタル録画機や書き込み用のCD、DVDなどのディスク価格に上乗せして消費者に負担を求めている「(著作権者への)補償金制度」の対象に、高画質DVD規格「ブルーレイディスク(BD)」を加えることで、著作権者に一定の配慮をするというものだった。

 補償金の仕組みは、録画機の場合、基準価格(カタログ表示価格の65%など)の1%で、上限は1000円。年内には、DVD録画機と同じようにBD録画機の価格にも数百円程度の補償金が上乗せされる見通しだ。しかし、メーカーの価格競争も激しいため、補償金の分はメーカーがかぶらざるを得ないとの見方もある。

コピー制限日本だけ、欧米では著作権者に配慮

 総務省によると、デジタル放送にコピー制限をかけているのは先進国では日本だけだ。ただ、欧米でも、著作権者には一定の配慮をしている。

 米国の場合、映画配給会社を中心とした番組制作会社や、出演者や脚本家など「権利者団体」の発言力が特に強い。

 このため、番組制作会社が放送局から受け取る制作費や放映権料は一般的に、日本の水準より大幅に高い。制作会社は、こうした潤沢な資金の中から、出演者などに、番組をDVDなどで販売する「二次利用」を含めた多額の契約金を支払うケースが多いという。

 一方、欧州では、日本と同様に著作権者の団体に対し、金銭的に補てんする補償金制度を導入している国が多い。

 補償金の年間総額はドイツが約255億円(06年)、フランスが約267億円(07年)の規模に達しており、日本の30億円前後に比べ大幅に多いのが現状だ。

 今回は経済部・加藤弘之、白櫨正一、石井重聡が担当しました。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080627nt06.htm