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2008年06月25日(水) 19時37分

銃撃・拿捕された日本漁船、露が国営企業に売却オーマイニュース

 「あの船は近い将来競売にかけられるはずさ」

 2006年10月、国後島と色丹島に上陸した記者に対し、地元の複数の関係者はそう語った。

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 「あの船」とは2006年8月、ロシアが実効支配を続ける北方領土の歯舞諸島・貝殻島付近で操業中にロシア国境警備隊に銃撃・拿捕(だほ)された根室湾中部漁業協同組合所属のカニかご漁船第31吉進丸(坂下登船長)のことである。

 このように事件直後から競売がうわさされていた船体が、ロシア国家漁業委員会傘下でサハリン(樺太)にある国営企業に譲渡されていたことが一部報道で明らかになった。

 事件では吉進丸の乗組員だった盛田光広さんが頭部に銃弾を受け死亡。ロシア側は残る坂下船長以下3人は国後島の古釜布(ロシア名・ユジノクリリスク)へ連行した。

 そのうえで坂下船長だけは現地で裁判にかけられ、同年9月、南クリル地区(国後島、色丹島を管轄下に置くロシアの行政区)裁判所で密漁と国境侵犯で有罪と認定され、25万ルーブル(約110万円)の罰金と船体の没収を命じる判決が言い渡された(帰国後、坂下船長はロシア側の起訴事実を全面否定)。

 実は記者は事件直後の現地入りで国後島在住者から銃撃された吉進丸の、船体の写真を入手していた。当時はさまざまな事情により、その写真をほとんど公開していなかったが、今回その写真をここに公開する。

 ご覧のように船首部分には国境警備隊による銃撃で開いたと思われる穴が散見される。

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 当時、国後島などの一般住民の間では事件に関しては、意外にもほとんどが坂下船長や亡くなった盛田さんに対して同情的な意見が大勢で、「密漁なんてロシア人の方が多いのに」と吐露する者さえいたほどだ。

 実際、2006年初頭ごろから、北方領土周辺海域では、ロシアマフィアが関与した密漁、密輸が横行し、サハリン州の税収にも少なからず影響を及ぼし始めていたことから、ロシア政府は、国境警備隊、税関、地元警察などの合同で「プロジェクト国境」と銘打った密漁取り締まりを強化していたほどだった。

 もっともそうした住民感情とは裏腹に、ロシア内でもプーチン前大統領の影響力が強い、内務省傘下の国境警備隊の姿勢は強硬そのものだった。

 この写真入手直後、記者は南クリル地区の政治上のトップだったイーゴリー・コーワリ地区長を通じて、警備隊に船体の撮影と取材を申し込んだが、取材拒否の返答すらない、完全無視の状況だった。

 ちなみに船体の競売について情報提供してくれた地元関係者の1人は次のようにも語っていた。

 「過去の事例からすると、競売の最低価格は日本円で100万円程度だな。事実関係の明確化を避けること意外にも、国境警備隊にとってはGPSなど最新機器を積んだ日本の船をタダで手に入れて売れるわけだし、そうした船を手に入れる側も破格の安値でどっちにもメリットがあるのさ」

 なお今回の件について外務省欧州局ロシア課の大槻耕太郎・首席事務官は記者の問い合わせに対し、「情報提供者の問題などもあり詳細は明かせないものの、報道以前に売却の事実は把握していた」と説明。過去1年以内にも船体返還を実際にロシア側に求めていたことを明らかにした。

 また、大槻首席事務官は、今後も返還を要求していく姿勢を強調するとともに、船体を没収するとしたロシア側の判決については、事件が起きた海域および判決を下した、ロシアの南クリル地区裁判所のいずれもが、日本政府にとって不法占拠された地域であることから、有効性は認めていないとした。

(記者:村上 和巳)

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