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2008年06月25日(水) 10時59分

サラリーマンNEOに見る日本のコメディーの限界〜烏賀陽弘道コラムオーマイニュース

 日曜の夜ってイヤですね、サラリーマン読者諸兄。はっ小職も、23歳から17年間、社畜でありました。帝政ロシアの農奴みたいな生活長かったもんすから、すっかりパブロフのイヌ状態、会社辞めて5年も経(た)つのに今でも日曜夜になるとすんげえディプレッシブな気分になって本気でゲロ吐きそう。

 考えてみりゃ月曜日寝てたって平気な自営業なのに、あほ丸出し。いや、そりゃそうなんだが、それくらいニッポン最大のカルト・カイシャで洗脳されたトラウマは大きいのですよ。

■サラリーマンNEOには政治家のおちょくりがほとんどない

 そんな重症サンデーブルーが激症化する午後11時、NHKでやってるコメディー「サラリーマンNEO」は画期的な番組ですね。多数の日本人が人生の大半を過ごす「カイシャ」をテーマにした爆笑コントの絨毯(じゅうたん)爆撃、これ見て腸捻転(ねんてん)一歩手前までゲラゲラ笑うと「ま〜カイシャもいっか」てな気分になる(といいですね)。

 いや、それより何よりこの「サラリーマンNEO」がすごいのは、そのコントの数々がNHK番組のセルフ・パロディー、つまりNHKへのおちょくりをNHK が放送しているってことなんです。だいたい冒頭から「NEOエクスプレス」ってうそニュース番組から始まるんだが、なにせNHKのニューススタジオをそのまま使ってるもんだから、わざわざ背景に「これはコメディー番組です」と注釈が入れにゃいかんくらい限界ギリギリまでイッちゃってる。

 「サラリーマン語講座」のぎこちなく不自然なスキットと、オツムの弱い女子アナにすぐにキレたりナンパしたりのいかがわしい講師は、一昔前のNHKの外国語講座そのまんま。「サラリーマン体操」はもちろん「ラジオ体操」のパロディーなんだけど「海外出張前夜の体操」なんてあほの極みとしかいいようのないテーマに、背広姿のおっさん3人が実に華麗かつ完ぺきな演技を披露するんで、パロディーもここまで来るとアートだねと思っちゃう。

 あわわわテレビ朝日系の「世界の車窓から」のパクリ「世界の社食から」なんてやっていいのか。ホントにインドやらアメリカやら世界の企業の社員食堂を回ってオカズや値段をルポするなんて、受信料の浪費だろが。でもおもしろいから許す。三谷幸喜や香取慎吾が大ファンだってのも頷(うなず)ける。あ、エミー賞コメディー部門の最終選考にも残ったらしいね(番組の中でそう言ってた)。

 断言しますが、自分が権威だとイバリくさってる組織にセルフ・パロディーはできません! 笑いの材料にした時点で自分の権威を否定しちゃうから。その意味じゃ、NHKと朝日新聞っていっときケンカしてたけど、個人的にいうとNHKの方がフトコロ広いじゃん。朝日新聞、ごめん。おれの母校、古巣だけど、朝日にゃセルフパロディーはできんっしょ。NHK、あんたが大将! などとしばし感慨に耽(ふけ)った次第。

 でもよーく見ると、このサラリーマンNEOにもNHKのタブーってのがちゃんと顔を出すんだな。そうです。政治家。政治家のおちょくりってのがサラリーマンNEOにはほとんどない。「ほとんど」と言ったのは、1回だけニアミスして自主規制してっから(こう見えても小職、当番組のDVDは全巻買って見ております)。サラリーマンのあほな生態を動物学者がくそまじめに解説する「会社の王国」(モチロン『野生の王国』のパロディーね。ってこれも毎日放送のパクリじゃねえか)ってコントで、4人の「上司」を分類して「××型」って名付けるってのがある。

 その上司の1人に、ライオンみたいな長髪のグレイヘアで、ジミーなグレイの背広を着て「まあ、担当者1人ひとりが一丸となってね、一生懸命議論してね、素晴らしいものに仕上げてもらいたい」と「一見もっともらしいがあとで考えると何言ってたんだかよくわかんない」ってタイプがいる。

 これ、もちろん小泉純一郎のおちょくり。見りゃあすぐわかる。だが、なぜかテロップは「@%$&劇場型」と伏せ字になって音声も「ホヒフヒ劇場型」とフガフガ言ってる。あーあ、やっぱ自民党総裁はコメディーネタにできんのかね、NHKさん(好意的に解釈すりゃこのコント、NHKの政治家タブーをおちょくったものとも考えられるな)。

■NHKの表現の自由は、最初から制限つき

 同じ公営放送ってことで、イギリスのBBC放送(BBC)が放送しているコメディー番組「リトル・ブリテン」と比べてみましょう。こっち見たら、NHK職員は全員椅子(いす)から転げ落ちるぞ。政治家おちょくり? はいあります。首相の秘書官セバスチャンがフケセンのゲイで、ロマンスグレーの首相に何とかニジリ寄ろうとするお下劣なコントシリーズがすごいね。

 まあそれもすごいけど、精神障害者おちょくり(あっ、ごめん。知恵遅れ? いや、心の不自由な人だっけ?)、身体障害者おちょくり(ああっ、ごめん。体の不自由な人だったっけ?)、老人イジメ(あああっごめん! 後期高齢者だっけ?)とか、こんな危ないネタやってインカ帝国のオンパレード。ちなみに「サラリーマンNEO」とエミー賞争って勝ったのはこっちでした。

 まあBBCのコメディー部門ってのは1969年にはコメディー史上不朽の名作番組「モンティ・パイソン」を放送してたくらい頭がおかしいですからね。「モンティ」の政治家おちょくりってのはある意味もうアッチ側へイッちゃってた。ひげ面の内務大臣がピンクのワンピースとパールのネックレスの女装で住宅政策についてインタビューを受けるとか、連邦大臣がストリップ劇場に出演、燕尾(えんび)服に山高帽を脱ぎ捨てパンツ一丁で国会演説をするとか、もうギタギタに政治家をコケにしまくっていた。

 さよう、「NHKらしくない」って大評判のサラリーマンNEOも、BBCのムチャクチャぶりの前にはカワイク思えちゃう。BBCは「笑いは貧者の武器」「権力批判こそ喜劇の責務」って哲学が貫徹してますな。

 なんでこーなる。イギリスの方が民主主義が成熟しているから? かもね。BBCは、政治家が介入できないように政府省庁から独立して設置された行政委員会の監督下にある。しかも、テレビやビデオ買うときにはライセンスカードがないと買えない。それくらい受信料徴収がキビシイ。だから財政も人事も政治の介入ができない。だから遠慮なく政治家をコケにできる。

 一方、NHKは内閣総理大臣が任命する総務大臣が最高責任者である総務省(つまり旧郵政省ですな。電波や放送免許を監督している連中っすよ)の監督下にある。んで、役員会にあたる経営委員会の人事と予算編成に与党政治家が介入できるんですな。つまり政府与党の直轄領なんです、NHKは。そりゃ小泉純一郎のおちょくりなんてやった日にゃ、局長クラスが呼び出されるでしょうなあ、総務省に。ははははは。要するにNHKの表現の自由って、最初から制限つきってことやんか。何だつまんねえの。

 あ、ちょっと話が難しかった? ごめん。要するに、NHKが政治家の介入を受けるのなんて、組織上当然のことなんだわ。イヤなら、BBCみたいに独立行政委員会方式にせんとあかん。そうすりゃ、思う存分政治家をコケにできるよ!

 ほいで、月曜日。わわわ。オーマイニュースの担当B場から「すみませーんウガヤさん、原稿届いてないんですけど〜」ってメール入ってるじゃん! イカン! すっかり締め切り忘れてた。げげげげげ。やっぱアイドンライクマンデー。って、何? へ? 今回が最終回? こらB場、冗談キッツイで〜。

(コラムニスト:烏賀陽 弘道)

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