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2008年06月24日(火) 13時08分

オーマイ読者相談室 うつ病を人知れず治すことはできますか?〜斎藤環センセイの回答オーマイニュース

(相談)
 仕事以外のストレスでうつ病を発症してしまったのですが、会社にも友人にも親にも知られたくありません。誰にも知られず治すことは可能ですか? (34歳男性、会社員)

■斎藤環センセイの回答

 なるほど、あなたの悩みはよくわかりました。しかし仕事以外のストレスって何でしょうね? 家族とか育児とかの悩みでしょうか。詮索するようで申し訳ないけれど、けっこうそのへんは大事なことなんで。

 それと、ちょっと気になったんですが、あなたの「うつ病」って、自己診断ですよね? ありがちな誤解なんですけど、なんとなく憂鬱で気分が前向きにならないことを「うつ病」だと思ってませんか?

 まずこのあたりから、はっきりさせていきましょう。最近は、「うつは心のカゼ」なんて言い方が流行ってて、自己診断する人も多いけれど、単なる「うつ状態」と「うつ病」はまた別物ですからね。

 もし本当に「うつ病」なら、自力で治すのはほぼムリなんで、できるだけ早く治療を受けなければいけません。でも「うつ状態」なら、話は別です。いや、うつ状態でも治療は必要ってのが医師としてのタテマエなんだけど、これは僕のホンネなんで、「ここだけの話」ってことでよろしく。

 では、どう「別」なのか、これから説明しましょう。

 心の病気の原因は、大きく分けて「脳に原因がある」か「心に原因がある」かのどっちかです。「うつ病」は脳に原因があるけど、「うつ状態」は心の原因だけでも起きる。

 だから、うつに陥るような理由がどうしても思い当たらない場合、それは「うつ病」の可能性が高いんです。一方、はっきりとストレスだけが原因で、ほかに理由がなさそうなら、それは「心の原因」かもしれないので、まず「うつ状態」から考えてみましょう。

 ストレスが原因の場合、治療のためにまず必要なのは、そのストレスを遠ざけることです。これも誤解されやすいんですが、ストレスに平気になるような薬やカウンセリングはありません。

 だって、考えてもみてください。おそらく日本の医療水準では最高の治療を受けているであろう雅子妃だって、なかなかあのストレス環境から解放されないからこそ、これほど長い間苦しんでいるじゃないですか。

 まずは思い切って、ストレスの原因を遠ざけましょう。これができなければ、その先の治療もおぼつかないですよ。いろんな事情があるでしょうけど、ここは決断のしどころです。人生の優先順を間違えないようにしましょう。仕事、病気、人間関係……と、大切なものはいろいろあるけれど、今の最優先は「病気の治療」、そうですよね? ちなみに優先順がわからなくなるのも「うつ」の特徴ですから気を付けてください。

 あとは通院して……と言いたいところだけど、病院は行きたくないんですね? そういう場合は、まず、ひたすら休養です。特に睡眠時間は大事にしてほしい。できれば起床時間を一定にして、生活リズムをつけることが大切です。それと、適度な運動はうつ状態を改善する効果があるといいます。

 うつの場合は、「精神的安静」が大切ですから、心の負担にならない「楽しいこと」には、積極的に取り組んでかまいません。旅行でも食事でも趣味の活動でも、なんでもいいでしょう。もし可能であれば人づきあいも活発にしたほうがいいですね。ひきこもってしまうとうつが悪化しやすくなるようです。もっとも、こういう時期だけは、新しい人と知り合うことは避けたほうがいいでしょう。重要な決断も、治ってからにしましょう。

 薬にしても、市販されている漢方薬をはじめ、いろいろありますね。病院の薬には抵抗があるなら、ためしに使ってみてもいいけれど、効かないことも多いので注意してください。

 とりあえず以上のような方法をぜんぶ試してみて、もしうまくいかなかったら、そのときは、ちゃんと治療を受けて下さい。

 具体的には、こんな場合。

・ストレスから離れたのに改善しない、むしろ悪くなった。
・ここで勧められたことがどれも億劫でやる気になれない。
・眠れない、食事が取れないといった身体の症状が出てきた。
・ときどき生きていることがむなしくなる。死んでもいいかな、と思ってしまう。

 こういう状態の時は、もう病院に行くしかありません。

 さいわい、うつは治る病気です。せっかく治療可能な病気にかかったんですから、堂々と休んで、堂々と治しましょう。

 もちろん医師には守秘義務がありますから、誰にも知られることはありません。健康保険組合から会社にばれるのでは、と考える人がいますが、個人情報は保護されますから心配ありません。最近の精神科クリニックは、きれいなオフィスビルの中で開業していたりするから、そんなに目立ちませんよ。

 あと、「精神科の薬は麻薬と同じ」「長く飲むと後遺症が残る」みたいなデマがまだ流布してますけど、もちろんウソです。ちゃんと使えば依存性もほとんどないし、お酒やタバコよりはずっと安全ですよ。

 勇気を持って、第一歩を踏み出してください。

■同じ相談への内田春菊センセイの回答は「 本気で聞いてます?

プロフィール
斎藤環[さいとう・たまき] 精神科医
1961年生まれ、岩手県出身。筑波大学医学研究科博士課程修了。医学博士。現職は、爽風会佐々木病院・診療部長。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、ラカンの精神分析、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙活動。ひきこもりの第一人者で、著作に『社会的ひきこもり』『ひきこもり救出マニュアル』『ひきこもり文化論』など。漫画・映画・その他サブカルチャー全般を愛好。

(OhmyNews編集部)

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