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2008年06月23日(月) 12時06分

グループホーム火災がもたらしつつあるものオーマイニュース

 神奈川県綾瀬市で6月2日発生した知的障がい者のグループホームの火災は放火だということが判明しました。ただ、今後の防火対策では、行政サイドの迷走も始まっています。

 報道でも「障害者施設」としているところと「グループホーム」としているところに分かれています。「施設」であれば消防法上は「福祉施設」ですが、障がい者のグループホームは住宅の場合が多く、「住宅」での扱いが今まではほとんどでした。

 それが、防火基準が厳しい福祉施設扱いとなると、グループホームの整備は遅れ、障がい者が施設を出て、地域で暮らすという計画が頓挫しかねない状況にあるのではないかと思います。

■グループホームとは?

 最近でこそ名前は知られてきているグループホームは、障がい者や高齢者が共同で生活する場です。元宮城県知事の浅野史郎氏が厚生省(当時)にいたころ導入を推進しました。これは、障がい者専用施設でなく、街中に障がい者が暮らすものとして、画期的な施策でした。障がい者用グループホームの多くは、戸建ての民家やマンションに数人が住み、食事の世話をしてくれる人が通ってきて生活していることが多いのです。また、精神障がい者用では古い木賃アパート1棟を借り切って運営しているところもあります。

■防火基準はどうなっているか?

  2006年、長崎県で起きた認知症高齢者グループホームでの火災による死亡事故を受け、総務省消防庁は、グループホームや宅老所、デイサービス施設などを「小規模社会福祉施設」として新基準を設け、09年から適用開始される予定です。自動火災報知設備、スプリンクラー設備(一定温度になると水を放出する装置)などを一定規模の施設に設けるように求めています。

 しかしながら、使用している建物が多様なのに対して、一律の規則で対応できるかという問題も出てきています。認知症グループホームでは、自宅と同じような雰囲気を大事にすることで、安定した生活を送っている場合もあり、こうした設備がお年寄りへの影響が心配されています。

 福岡市内の宅老所では法改正前に防火設備を設置したところもありますが、費用負担も大きかったとのことです。また、火災があったときに、高齢者や障がい者が適切に対応できるのか、それを支援する人が障がい者施設ではいないこともありますし、高齢者施設では一人勤務のケースも少なくないです。設備整備の補助と人的支援を増やすこと同時に、いざというときに、地域の協力体制がとれるかも不可欠です。

■入所施設から地域生活への移行は進むのか

  2006年施行の障害者自立支援法は入所施設の入所を制限し、新たな入所施設を作らず、入所施設利用者を2011年度末までに、知的障がい者で1.1万人、精神障がい者で3.7万人減らすことを目標にしています。政府としては財政負担軽減が大きな動機かもしれませんが、当事者・家族の意識の変化もあり、地域生活移行は大きな流れになっています。

 その受け皿となる場は、グループホームがメインになります。知的障がい者全体では、8.9%がグループホーム住まいです。(厚生労働省調査)行政の計画でも大量の設置が期待されています。(図・厚生労働省資料参照)。

 しかし、今回の事件後のいくつかの動きから、こうした流れが一気に止まることも考えられます。

(1) 「福祉施設」としての防火基準が求められると貸してくれる大家さんが大幅に減少すると思われます。原状回復義務を課したとしても、住宅としてのイメージからは遠のくからです。そうすると借家での整備は大幅に減ります。

(2)施設運営者からすると、障害者自立支援法で報酬が削減されたのに加え、新たな負担までしてグループホームを開設していく意欲はさらに低下していくことが予測されます。さらに、月額報酬から日割りになり、外泊などした障がい者がいれば減額されるが、職員の配置は求められます。事業者の意欲低下を示す声が増えています。

(3) 今回の事件を含めて、グループホームへのイメージ低下となり、利用できる建物が少なくなることが懸念されています。

 入所施設や病院から地域生活を希望する人だけでなく、親の高齢化により、家族から離れて生活する場としてのグループホームへの期待も高く、今回の事件の影響が心配されています。障がい者が地域で暮らすための方策として、グループホームだけでなく、多様な住まいの場の確保と支援者の配置など新たな発想も求められるのではないでしょうか。

(記者:下川 悦治)

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