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2008年06月21日(土) 00時00分

ネット規制法成立 有害判断、民間に重責読売新聞

 インターネットの有害情報から青少年を守るためのインターネット規制法(有害サイト規制法)が今国会で成立し、1年以内に施行されることになった。

 サイトが有害かどうかの判断は民間に委ね、行政権の関与を最小限にとどめたのが特徴で、憲法が保障する「表現の自由」に配慮した格好だ。ただ、民間の取り組みが実を結ばなければ、行政による規制強化に道を開く可能性も残る。ネット業界は重い責任を負ったと言えそうだ。(白櫨正一、山本貴徳)

審査の第三者機関、相次いで発足

 18歳未満の青少年に有害な情報として、〈1〉犯罪行為や自殺を直接的・明示的に誘引〈2〉著しく性欲を刺激〈3〉殺人、処刑、虐待の場面描写など著しく残虐——などと例示した。

 特定のサイトや情報が有害情報にあたるかどうかを判断するのは、民間の団体だ。新法制定の動きにあわせて、通信業界では審査のための第三者機関が相次いで発足した。

 携帯電話向けサイトの業界団体が4月に設立した「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」は、6月中にサイトの審査を開始する。ネット関連会社などが5月末に作った「インターネット・コンテンツ審査監視機構(I—ROI)」も9月の審査開始に向け準備中だ。

 これら2団体は、サイトなどの健全性の度合いを判断する。閲覧を制限するフィルタリング(選別)サービスを実施している携帯電話会社などに対して、「閲覧制限の必要なし」「高校生未満の閲覧は不適当」などの情報を提供する。

 また、ネット関連業者などが設立した財団法人インターネット協会は、運営する「インターネット・ホットラインセンター」で有害情報の通報を受け付ける。有害と判断すれば、サイト運営者やネット接続業者といった「サーバー管理者」に対し、情報の削除やサイトの閲覧防止を要請する。

 一方、国の役割は、フィルタリングサービスの普及やインターネット教育の推進などに限定した。サイトの有害性の判断には関与しない。

 新法をとりまとめた衆院青少年問題特別委員会の玄葉光一郎委員長は「民間の自主的な取り組みの背中を押す」と、法の基本理念を説明する。憲法が保障する「表現の自由」に触れる可能性もあることから、サイトの閉鎖や閲覧制限を強制する枠組みはほとんど盛り込まれなかった。

 例えば、有害情報の削除要請を受けたサーバー管理者は「(削除などの)措置を取るよう努めなければならない」と定められた。いわゆる「努力義務」で、罰則はない。

 また、携帯電話会社には、青少年にフィルタリングサービスを提供するよう義務付ける一方で、保護者が「サービス不要」と意思表示すれば、提供する必要はない。

新法に「表現の自由侵害」の警戒も

 通信、放送業界には、「運用によって表現の自由が侵害される恐れがある」(楽天)などと新法に対する警戒感が根強い。

 理由は大きく三つある。1点目は、「青少年が安心してインターネットを利用できるようにするための」基本計画を、国が策定すると定めたことだ。

 2点目は、フィルタリングの調査研究機関などが国に登録できる制度や、国や自治体が民間団体に助成できるとした規定だ。

 これらの規定は運用次第で、サイトの運営に国が介入したり、行政側に都合の良い民間団体を選別したりすることにつながるとの指摘がある。

 3点目は、施行後3年以内に法自体を見直す規定を盛り込んだことだ。「施行状況を検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」という。民間の自主的な取り組みでは青少年のネット閲覧環境が整わないということになれば、国の関与を強める方向で法改正が図られる可能性がある。

 EMA代表理事の堀部政男・一橋大名誉教授は「新法は民間に非常に重く難しい宿題を課した。責任を自覚し、果たしていく必要がある」と話す。

携帯4社、年齢別制限の導入へ

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルと簡易型携帯電話(PHS)大手ウィルコムの4社は年度内にも、フィルタリングサービスに年齢別の制限を導入する。子どもの年齢に応じて、保護者が制限の範囲を変えられるようにする方針だ。

 パソコン向けのサービスでは既に、年齢に応じた制限範囲の設定ができるようになっている。例えばデジタルアーツ(東京・千代田区)が開発したソフト「i—フィルター 5.0」は、「小学生向け」「中学生向け」「高校生向け」「大人向け」「企業向け」の5段階に細分化されている。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080623nt04.htm