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2008年06月20日(金) 00時00分

(12)心に刻む桜桃忌読売新聞

乳母のひ孫初墓参 作品朗読アナ「努力誓う」
太宰の墓に花を手向ける女性

 19日。60回目の「桜桃忌」が巡ってきた。太宰の墓所、三鷹市の禅林寺にファンが詰めかけるのは、毎年の光景。でも、節目の今年は意外な初参加者がいた。

 午前9時半に訪れたのは、太宰の乳母のひ孫、津島克正さん(43)。津島さんは太宰の故郷・青森県五所川原市出身で、墓所に訪れるのは初めてだ。歯科医の津島さんは太宰の本をかたどった瓶の日本酒を、所属するNPOで18日から発売した。上京はその報告。墓前に商品を供え、「三鷹で太宰が愛されているのがよく分かった。五所川原と三鷹の親交を深められるよう、街に帰って盛り上げていきたい」。

 次に登場したのは、フリーアナウンサーの原きよさん(41)。太宰作品の朗読ライブを続けている。「これまでは、自分の朗読に自信がなくて『恐れ多い』と思っていた」という原さん。だが、「今年は『今後も頑張っていきます』と報告したくて」。ウイスキーを墓にかけて冥福(めいふく)を祈った。

 太宰の行きつけの酒屋「伊勢元」元店主の奥谷昭二さん(70)は、地元で太宰の姿を記憶する貴重な証人。店は一昨年閉めて、初めて桜桃忌に訪れた。「これまでは、店でファンを迎えていたんだよね。こんなに人がたくさん来ているとは思わなかった」と目を丸くしていた。

墓前にビールを供え、自分もビールを飲み干す女性

 午前11時ごろ、速足で現れたスーツ姿の男性は、墓前で太宰が愛したたばこ「ゴールデンバット」を一服して去った。「一緒に飲もう」と墓の横に缶ビールを供え、自分も墓前でビールを飲み干す女性もいた。

 午後1時半ごろ。「こうやるんだ」と、常連の男性が、墓石に彫られた「太宰治」の文字に、サクランボを埋め込み始めた。午後2時から読経。禅林寺は太宰が入水した13日を命日としているが、亡骸(なきがら)の見つかった19日にも、供養をしている。

 墓前を訪れたファンは1日で500人を超えた。

 連載は、あと5行だ。太宰の紀行文「津軽」の言葉でさわやかに終わりたい。

 「さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな。では、失敬」

 (おわり、吉良敦岐が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231212425875707_02/news/20080620-OYT8T00093.htm