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2008年06月20日(金) 15時46分

欧州大統領なんか要らない?市民に嫌われたEUの前途多難ダイヤモンド・オンライン

 「ミスター欧州は誰だ」。1970年代、欧州各国との外交調整に疲労困憊したキッシンジャー米国務長官(当時)は周囲によくこう漏らしていたといわれる。欧州大統領——。それはやはり夢に過ぎないのだろうか。

 任期2年半の常任議長ポスト、すなわち欧州大統領の創設などを定めたEU新基本条約(リスボン条約)は昨年12月ポルトガルの首都リスボンで採択され、EU加盟27カ国の批准を経て、2009年1月に発効する見通しだった。ところが、先週末に開かれたアイルランドの国民投票でよもやの否決。独仏など18カ国が批准を済ませたところで、袋小路に迷い込んだのだ。
 
 「今後批准拒否のドミノ現象が起きるかもしれない」(欧州議会議員)との恐れは杞憂とは言い切れない。未批准国はアイルランドを含めて8カ国。国民投票の実施を予定している国は現時点では他にはないが、チェコなどEU懐疑派が多い国において議会での批准作業が残されているからである。

 事態を重く見たEUは、時間をかけて批准作業を進めるよう残る8ヵ国に促した。少なくとも2009年1月の条約発効は不可能となった。

 想定される今後のシナリオは2つにひとつだ。

 ひとつは、このまま批准を進めた上で、アイルランドに再投票を求める。もうひとつは、リスボン条約への移行を諦め、独仏など中核加盟国が先行し“リスボン条約的”な安全保障分野などでのEU統合の深化に踏み出すことである。11カ国で旗揚げし、その後導入国を追加し続けている通貨統合と同じ理屈だ。

 現時点では、アイルランドに続くと懸念されていた英国が18日、駆け込みで議会での批准に成功したことから、前者のシナリオが有望視されており、19日からブリュッセルで開かれているEU首脳会議でもその路線が確認されたが、チェコではクラウス大統領が「条約は終わった」と公言するなど、予断は許さない。そこで、独仏政府の一部では、「安全策をとって、アイルランドやチェコなどの否定派抜きの選別統合の道も並行して探るべきとの声が強まっている」(EU関係者)という。
 
 ただ、選別統合を進めれば、ひとつの欧州の理想は崩れる。またなによりアイルランドの民意の軽視を意味する。リスボン条約の原型となったEU憲法が2005年に仏蘭両国の国民投票で否決されて以来、「市民に近いEUを作る」としてきたブリュッセルの欺瞞が改めてクローズアップされることになる。そのとき、民意の頂に君臨する大統領という言葉はEUでは死語になるはずだ。

(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)

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