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2008年06月20日(金) 12時12分

通知のみで廃止される制度って…オーマイニュース

 昨年、北海道滝川市の元暴力団員が約2億円の通院交通費(タクシー利用)を不正受給した事件を受け、通院にかかる費用について、厚生労働省は通知だけで、「原則、福祉事務所管内」の「へき地等で電車やバスを利用しても料金が高額」などの場合のみに限定することにした。不正受給に対する世論の批判を逆手にとったこの措置は、真(しん)に必要な人たちの声を抑えつけることにならないかと心配されている。

■精神障がい者の状況はどのようなものなのか

 日本てんかん協会福岡県支部が、2001年に調査した「てんかんと診断した病院」は、公立病院37.3%、大学病院33.9%である。

 福岡の場合、大学病院が4カ所と比較的多いという事情もあるが、福祉事務所管内に住んでいる人たちは限定される。てんかんの人で、東京以南で唯一、国立てんかんセンターがある静岡県で、受診を希望した生活保護受給者が断られたケースもある。

 共同作業所などで働く精神障がい者には通院先が遠い人も多い。最近は都心にもクリニックが増えているが、作業所に来ている人の多くは入院経験がある。そうなると通院先が遠隔地になりがちだ。これには、精神科病院が迷惑施設とされていた経緯から、もともと辺ぴな場所に作られたことにもよる。

 私が所属する団体が福岡市で行った精神障がい者の家族の調査によると、「家族の苦労」で最も多いのは「将来の不安」。次いで「病状の悪化」「偏見・差別」「治療費・生活費」と続いた。

 精神障がい者の多くは成人後の発病が多く、親も年金生活など高齢者が多い。親が必死になって支えている姿が知られることはほとんどない。NPO法人全国精神障害者ネットワーク協議会の2006年調査によれば、地域生活をしている精神障害者673人中153人は生活保護を利用して生計を立てている。約7人に1人は生活保護を利用しながら地域生活を行っている割合になっている。

■問題はどこにあるのか

 交通費が自己負担になればどうなるか。通院回数を減らすか、あるいは通院を止める人が出てくる可能性もある。利用日数が減り、その分、施設の収入も減る。今回の措置で公費負担は減るかもしれないが、本人の状態は悪化しないだろうか。懸念される。

 厚生労働省は交通費の支給制限を7月実施としているが、公共交通機関を利用している人に対して打ち切っている自治体は、すでにある。舛添厚労相は閣議後の記者会見で、「自治体は、厚労省が何もかも基準を決めないとできないのか。箸(はし)の上げ下げまでやらんといかんのか」と述べたという(5月25日読売新聞)。

 このように具体的な基準があいまいなまま、実施責任を自治体に負わせている。今後、「不正受給」の指摘が地域間で異なってくる可能性がある。

 生活保護世帯の約4割が「障害・傷病」であり、高齢者もほぼ4割。医療的な管理が求められる人たちが多い。今回の措置は、実質的な保護基準の切り下げと同じ影響を与える。このようなことが官僚の通知のみで変更できるというのもいかがなものか。

(記者:下川 悦治)

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