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2008年06月19日(木) 11時41分

「裁判所は断罪して終わり」医療介護CBニュース

 「裁判所は断罪して終わりだ」—。子どもを虐待して死亡させた親の刑事弁護人を引き受け、児童虐待の問題に取り組んでいる岩城正光弁護士はこのほど、厚生労働省が開催した会議で特別講演し、日本の刑事司法をめぐる問題に鋭く切り込んだ。
 「加害者を処罰して終わりではない。『どうしたら虐待を防ぐことができたか』という視点を判決文の中に書いてほしいと願って活動しているが、残念なことに、この思いが満たされたことはない」

 厚労省は6月17日、各都道府県の担当者を集めた「2008年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議」を開き、児童虐待防止対策の推進や障害者施策の見直しなどについて、関係法令の改正点や今年度の方針などを説明した。

 特別講演では、特定非営利活動法人(NPO法人)「日本子どもの虐待防止民間ネットワーク」理事長で、社会保障審議会児童部会の「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」で委員を務める岩城弁護士が登壇。「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」と題して、児童虐待が発生する背景や対応策、今後の課題などを解説した。

 岩城弁護士は、虐待による死亡などの検証報告に先立ち、児童虐待の解決に向けた思いを語った。「多くの被疑者(親)は『帰ってください』『わたしには弁護を受ける資格はありません』と言って目をそむける。そこで、『あなたの刑を軽くするつもりはない。第二の悲劇を起こさないために、子どもの死を無駄にしてはいけない』と話すと、ここで初めて目線を合わせてくれる」と述べ、児童虐待が発生するメカニズムを解明する必要性を強調した。

 「加害者を処罰して終わりではない。『どうしたら虐待を防ぐことができたか』という視点を判決文の中に書いてほしいと願って活動している。しかし、日本の裁判所は断罪して終わりだ。『到底許されるべきではない』というバッシングの言葉はたくさん出てくるが、原因は解明されていない。裁判所には多くの情報が集まっているのに、判決という形になると、こんな薄っぺらな表現しかできないのだろうか」

 岩城弁護士は「残念なことに、わたしの思いが満たされたことはない」と嘆きながら、次のように述べた。
 「多くの判決文を集めて分析したことがあるが、何が原因かを突き止めた判決文はほとんどない。『児童福祉はこうあるべきだった』とか、『保健センターがこうしてくれたら』ということを書いてくれたら、司法権が行政に対してメッセージを飛ばすことになる。とても意味のある判決になると思うのだが、いまだにわたしの思いは実現していない」


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