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2008年06月19日(木) 22時45分

「救急拠点病院、現場を崩壊させる」医療介護CBニュース

 「救急拠点病院ができれば、かえって救急医療の現場が混乱し、医療崩壊が進む」—。6月10日に厚生労働省医政局が「救急医療の今後のあり方に関する検討会」に提示した、救急医療の拠点となる医療機関をイメージした「地域救急拠点病院」(仮称)が、現場に波紋を広げている。二次救急の集約化に乗り出した厚労省に、現場から「拠点病院をつくることで、行政の問題までも現場にかぶせようとしている」との批判が上がる。舛添要一厚生労働相はこうした状況を受け、「現場の取り組みを見て検討したい」と、現場の実情に沿った制度設計にしたい考えだ。(熊田梨恵)

 同局は、検討会に示した中間取りまとめの骨子(案)の中で、診療体制や活動実績において一定の基準を満たしている二次救急医療機関「地域救急拠点病院」(仮称)の整備を提案。具体的要件として、▽休日・夜間に、専門科を問わず、救急初期対応が可能な医師を専従で救急外来に配置し、入院治療を要する救急患者に必要な診療を常時行う(交代勤務制を採用)▽救急専用(もしくは優先)の空きベッドを確保▽消防機関からの受け入れ専用電話を設置し、搬送要請への応答を記録・分析、応需状況を公表▽レントゲン技師、臨床検査技師などを常時配置し、レントゲンや血液検査が可能▽医師の事務作業の補助スタッフの配置▽休日・夜間でも、急性冠症候群や脳卒中など緊急を要する病態の専門的診療が自施設か地域連携によって対応できる▽一定の救急搬送受け入れ数を達成—などを挙げている。

 これに先立つ5月30日、自民党の社会保障制度調査会が「救急医療と搬送に関する課題と対策について」と題する提言をまとめており、これが同局の地域救急拠点病院に関する案の布石になっている。提言にも、「救急医療機関の拠点化(集約化・重点化)」の項目があり、「二次救急医療機関を中心に個々の医療機関の役割分担を見直した上で、拠点となる医療機関を定める」と明記されている。この提言も検討会の資料として提出された。
 
 検討会で、坂本哲也委員(帝京大医学部救命救急センター教授)は、「拠点病院を決めると、拠点でなくなった病院が地域の救急医療に対して責任がなくなったと思い、救急患者をすべて拠点病院に回してしまうという事態が懸念される。そうなると、かえって救急医療の現場が混乱し、崩壊が進んでしまう。あくまでも現状の仕組みを維持しながら、需要の増大などに対応する形で決めていただきたい」と要望。

 同局は来年度予算編成を視野に、7月の北海道洞爺湖サミット終了後に検討会を開き、中間取りまとめを行う予定だ。


■ビジョン会議にも「同じ」案

 また、6月19日の舛添厚労相の私的諮問機関「安心と希望の医療確保ビジョン」会議で、「現行の初期救急、二次救急、三次救急の三段構えを維持しながら、量的・質的充実を図り、救急患者に対し、地域全体でトリアージ(重症度・緊急性等による患者の区分)を行い、院内の各診療科だけでなく、地域全体の各医療機関の専門性の中から、病状に応じた適切な医療を提供できる医療機関または院内の診療科へ効率的に振り分ける体制を整備する(管制塔機能を担う医療機関の整備・人材の育成)」との文言を盛り込んだ報告書案が了承された。

 二十四時間態勢のERに従事する医師の交代制勤務のための予算措置などを求める矢崎義雄委員(国立病院機構理事長)の意見に、舛添厚労相は「しっかりやっていきたい」と述べている。

 会議終了後、同省医政局の二川一男総務課長はキャリアブレインの取材に対し、今回の「安心と希望の医療確保ビジョン」会議と「救急医療の今後のあり方に関する検討会」に示した救急医療機関の拠点化については「同じもの」と明言。その上で、救急医療の「管制塔機能を担う」医療機関の整備に取り組む方針を来年度予算編成に盛り込む考えを示した。


■既にある救急体制が崩壊

 この救急拠点病院について、日本救急医学会の有賀徹理事は、「それぞれの地域の実情を見ないまま、全国一律に地域救急拠点病院をつくっても機能しない」と反論。地域が既に構築している救急体制を崩壊させるとの懸念を示した。

 「地域救急拠点病院の機能について、議論が全くないまま予算を組んでどうするのか。現在の地域医療は、得意な診療科が個々の医療機関で違い、病院や診療所の規模など、『モザイク的』に入り組んでいる。その中でお互いの状況を勘案しながら、救急体制を構築している。例えば、江戸川区医師会などは診療科や医療設備など、それぞれの医療機関の特徴を把握して、時間帯や曜日などで救急の受け入れが可能な医療機関を整理しており、それをタクシー運転手に伝えて患者に来てもらえるようにするなどのいい取り組みをしているから、厚労省にも見てほしい。東京の救急医療対策会議でも、『元気な二次医療機関に少しでも医師を増やせば、受け入れ回数が増えるかもしれない』という議論もあるが、あくまで一次から三次までの救急医療体制としてということ。地域によって違いがある。そこに突然、地域救急拠点病院ができてどういう機能を果たすのか」

 また、「昭和50年代に一度こういう(救急医療の集約化についての)議論があったが、その時には医師会が『自分たちのところを経てほしい』と要望し、当時の厚生省が折り合いを付け、病院団体なども追認した。それで現在の一次から三次救急という三段構えの体制の議論が進んでいった経緯がある。また、2年ほど前に厚労省で、二次救急の中で救急専門医が地域の救急体制を構築しようという議論もあったが、こうしたさまざまな議論をつまみ食いして、突然この拠点病院が出てきたように見える」と苦言を呈した。

 さらに、「厚労省は地域救急拠点病院をつくることで、例えば受け入れ不能の問題などが起こったときに『拠点病院がしっかりやらないからだ』と逃げる理由ができ、現場に責任をかぶせることができる」と述べ、行政の責任回避との見方も示した。


■舛添厚労相「現場を見て検討」

 舛添厚労相はキャリアブレインの取材に対し、「現場の取り組みを見て検討したい。例えば、江戸川区では地域の中小病院と診療所が連携して一次・二次救急を支えていると聞くので、視察に行きたい」と語り、地域の実情や現場の取り組みを踏まえた上で、救急医療の在り方を検討していく方針を示した。


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