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2008年06月18日(水) 11時30分

彼が依頼したのは「不良探偵」?〜市民記者が検証した「探偵の仕事」(1)オーマイニュース

 10数年前、私は探偵事務所を開いていたことがある。探偵と付き合いがあって手伝いもしたし、無線の知識があったので、「自分でやってみないか?」と言われたのがきっかけだ。

 探偵と言うと実にうさんくさい稼業。実は不良探偵も多かった。ただ私は、地方都市でひっそりとながら実名で探偵家業をやり、顔向けできないクライアントはいない。そのことには誇りを持っているので、元探偵だったことを隠したことはない。

 今年2月中旬、知人の紹介で大阪に住む、45歳の男性から次のような趣旨のメールをもらった。

妻が浮気をしているのではないかと不審に思い、妻にバレないよう親から借金をして探偵に依頼。1日1万円で張り込み尾行を2カ月してもらった。すると、40万円かかった揚げ句「あなたの被害妄想だ」と言われた

 一見すると義憤にかられる内容の相談だが、この男性の一方的な情報だけでは判断できない。本当に毎日、人を使って張り込み・尾行をしたのであれば格安な金額である。

 浮気調査に毎日べったりとマークする必要はないが、クライアントの要望があれば行うこともある。探偵を廃業してもう10年以上たつが、不良探偵は許せないし、まじめな探偵が不良扱いされるのも許せない。

 そこで、男性と実際にあってみることにした。2月26日、京都市内のホテルのロビーで待ち合わせ、次の質問と答えを得た。

──毎日張り込み尾行をするように決めたのは探偵か、それともあなたの依頼か?

 「探偵」

──日々の調査報告は代金と引き換えにもらったか?

 「もらってない。A4用紙1枚で『不貞関係の事実は認められない』『被調査人においては不倫の事実はないと思慮される』とあっただけだ」

 この2つが本当なら探偵に落ち度があることは明白である。おそらく金を取っただけで何の仕事もしていないはずである。

 確認のため探偵事務所に電話をして、毎日張り込んだ理由と日々の報告書が出せない理由を聞いてみたら「個人情報の保護の観点から、依頼者以外には教えられない」「依頼者には説明済み」の一点張りであった。

 そこで依頼者にいったん代わってもらい、私が元同業であることを告げる。すると探偵は「依頼者が被害妄想があること」「調査の妨害をすること」などを話し始めた。

 探偵をしていると被害妄想の相談は実に多いが、被害妄想であれば相談を受けているうちにおおむね見当はつくことを指摘すると、「クライアントの話は支離滅裂であり当初実際に調査も行ったが、どう考えても不倫を確定付ける根拠はない。報告書は間違っていない」という。

 不貞関係はないにしても、男性が言うように40万円の根拠として毎日の張り込み・尾行を理由に請求したとすれば違法である。さらに電話で依頼を受けて代金を振り込ませており「探偵業務の適正化に関する法律」に定められている事項は履行していない。

 それゆえに契約の詳細が何も残っておらず「言った言わないのこととなる」。また、「探偵に直接会いたくない」と言うクライアントもおり、そこで依頼を断るか否かは違法であるが微妙なところである。その際はクライアントが本当に被調査人と婚姻関係にあるのかを調査し、ストーカーや恐喝を企てる者でないことを確認することは最低限度必要である。

 もし男性の言うことが本当であれば、元探偵の私としても許せないし、まじめに探偵業を営んでいる人からすればもっと許せない。

 悲しいことに実際に探偵業を行っていると、同業とのトラブルの相談は多い。おおむねクライアントに落ち度がある場合が多いが、中には逆の案件があるのも事実である。

 そこで、この被害者男性の妻に対する不信感が妄想なのか事実なのかを検証することにした。それに当たって、くだんの探偵会社を刺激しすぎれば、夫が不信を持ち調査している旨の情報が妻側に漏れる可能性があるので、探偵の追及は後回しにした。

〈全8回、つづく〉

(記者:湯浅 秀昭)

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