記事登録
2008年06月18日(水) 14時54分

「iPhoneは電話のあるべき姿を永遠に変えた」+D PC USER

 WWDC 2008基調講演の詳報として、これまで第1部の「iPhone 2.0」、第2部の「MobileMe」を前編と中編に分けて見てきた。第3部はもちろん、Web閲覧を2倍以上高速にし、価格を半分に引き下げた「iPhone 3G」だ。

【他の画像を含む記事】

●初代iPhoneの驚くべき実績

 「MobileMe」の紹介を終えたジョブズ氏は、数週間後には「iPhoneが最初の誕生日(出荷から1周年)」を迎える、と切り出した。

 ジョブズ氏はいくつかの写真を見せながら、初代iPhoneの発売がいかに盛り上がったかや、「Best Invention of the Year(年間最優秀発明賞)」など、数々の賞を受賞したことを振り返り、こう続けた。

 iPhoneこそが「電話のあるべき姿を未来永劫(えいごう)変えてしまった電話」だと。

 だが、ジョブズ氏は続けて言う。それ以上にすばらしいのは「ユーザーがiPhoneを愛してやまない」ということだ。同氏は初代iPhoneに対する消費者の反応を示すいくつかの統計を紹介した。

 まずは「顧客満足度90%」——今日、いったいiPhone以外に顧客満足度90%の商品なんてあるだろうか、とジョブズは言う。

 98%の人がiPhoneを使ってWebブラウジングをしている。「iPhoneが出てくるまで、携帯電話を使ってPC用のWebを見る人はほとんど皆無だった」。そして「94%が電子メールを利用」「90%がテキストメッセージングを利用」「80%の人が10以上の機能を利用」と続けていく。

 ジョブズ氏は言う。「ほかの携帯電話では、10もの機能を呼び出そうなんていう思いにも至らない。この結果は驚くべきことだ」——アップルは最初の1年間で600万台のiPhoneを出荷した。

●iPhoneが取り組むべき課題——iPhone 3Gへ

 ジョブズ氏は、続いてiPhoneが次に取り組むべき5つの課題を紹介した。

 1つめは、3Gへの対応。

 2つめは、企業情報システムへの対応だ。

 3つめは、サードパーティアプリケーションのサポート。

 4つめは、さらに多くの国への進出。

 5つめは、もっと手頃な価格設定。

 アップルの調査によれば、iPhoneを持っていない人の56%が「買わない理由」として「価格」を挙げているという。

 「iPhoneが最初の誕生日を迎えるにあたって、我々はiPhoneを次のレベルに引き上げようと思っている。今日、我々はiPhone 3Gを発表する」。

 ジョブズがこう宣言すると、会場からは歓声があがり、喝さいが鳴り響いた。

●通信スピードが売りのiPhone 3G登場

 「我々は最初のiPhoneから非常に多くのことを学んだ。iPhone 3Gでは、そうして学んだことを反映した」とジョブズ氏は語る。

 ジョブズはまず、iPhone 3Gの側面の写真から披露した。「エッジの部分は、従来のiPhoneよりもさらに薄くなっている。背面は全面プラスチックで美しい。(側面には)ソリッドなメタルのボタンを採用。従来通りのゴージャスな3.5インチ液晶ディスプレイ。カメラ。そして平らなヘッドフォンジャック——これで好きなヘッドフォンを使うことができる」。

 会場からは再び歓声が挙がる(初代iPhoneはヘッドフォンジャックが奥まっているために、種類によってはヘッドフォン端子にささらないことがあった)。「劇的に向上した(スピーカーの)音質。とにかくすばらしいが、手に持ったときの感触はさらにすごい。信じられないだろう。iPhone 3Gだ」。

 続いてジョブズ氏は、先ほどあげた5つの課題にiPhone 3Gがどのように応えているかを紹介した。

 まずは1つめの3G対応。ジョブズ氏は3Gの本質は高速なデータ転送であり、高速なデータ転送が生きてくるのは、Webブラウジングと大きな添付ファイルのダウンロード時だと言う。

 ジョブズ氏は新旧のiPhoneで、同じWebページを表示させる比較テストをデモした。複雑なレイアウトで画像がいっぱいのページを表示するのに、新iPhoneが21秒で済むところを、旧iPhoneでは59秒かかった。つまり、新iPhoneは2.8倍速いことになる。

 ジョブズ氏は「さらに特筆すべきは、同じWebページを無線LAN接続で行うと、表示にかかる時間は17秒。3G通信の速度は無線LANに迫る高速な通信を可能にする」と付け加えた。

 さらに面白かったのは、ほかの3G対応スマートフォンとの比較だ。アップルは、同じWebページを3G対応のNokia「N95」や、Palm「Treo 750」で表示した場合の時間も比べている。いずれも3G端末なのでネットワークスピードは同じはずだが、新iPhoneが21秒で済むところを、N95は33秒、Treo 750は34秒かかった。iPhoneのほうが36%高速だ。

 ジョブズ氏はさらに画面を指して言う。「だが、それ以上に驚きなのは(ページを表示した)結果だ」——N95やTreo 750は、Webページの左上の隅、ロゴマークの一部だけしか表示されていないのに対して、iPhoneではページを縮小して全体イメージが表示されている。

 電子メールに添付されたPDF形式の地図を展開し表示するテストでは、iPhone 3Gが5秒で済んだところを、旧iPhoneでは18秒かかった。新iPhoneのほうが3.6倍高速だ。無線LANの速度は3秒なので、3G接続は無線LANにかなり近づいている。

 ジョブズはさらに続ける。「スピードが速いのは分かってもらえたと思うが、実は本当にすごいのは、我々がこれをすばらしいバッテリー寿命と両立していることだ」。ジョブズ氏はこういってiPhone 3Gのバッテリー動作時間を紹介した。

 スタンドバイ時間は300時間、2G接続での通話時間は10時間、3G接続での通話時間は5時間、Webブラウジングの時間は5〜6時間、ビデオ再生は7時間、音楽再生は24時間だという。

●iPhone 3Gのそのほかの特徴

 「3Gの高速通信を使うメリットの1つは、GPSの利用が可能になることだ」。ジョブズ氏はこう語ると、iPhone 3GにGPSが搭載されたことを明らかにした。

 ジョブズ氏は「ロケーションサービスは、これから非常に重要になる」と語ったうえで、これまでのiPhoneにも、携帯電話の電波塔からの電波を使った位置特定、無線LANを使った位置特定を提供してきたが、GPSを使えばさらに詳細に現在地を知ることができると紹介。「GPSデータを使うことで、Tracking(足取りの再生)が可能になる」として、サンフランシスコにあるジグザグ型の坂を下る様子を再生してみせた。

 2つめの課題、企業情報システムへの対応では、すでに前編の「iPhone 2.0」で説明したとおり、Microsoft ExchangeのActiveSyncに対応したほか、CISCOのVPN技術など、企業で必要とされているほとんどの技術に対応し、FORTUNE 500の多くの企業からも賞賛を浴びている。サードパーティアプリケーションについてもすでに紹介したとおりで、SDKをリリースし、多くの開発者がすばらしいアプリケーションを作っており、アップルはそれをApp Store経由で販売する予定だ。

「かな」キーボードの注目機能

 ちなみにiPhone 2.0に関して、インタビュー速報では触れなかったが、新しい「かな」キーボードには実際に触って気付く機能が1つあった。キーの上にしばらく指を載せておくと、その周囲4方向にメニューが現れるのだ。例えば「た」のキーをしばらく押し続けると、その上下左右に「ち」「つ」「て」「と」の文字が現れ、そのため指をずらすだけで1ストロークでも文字入力ができるのだ。これはハードウェアのボタンとしてキーが用意されているこれまでの携帯電話ではできない入力方法で、慣れればすごく便利かもしれない

●70カ国で展開、価格は199ドルへ

 続いて取り上げた課題は「より多くの国での展開」だ。iPhoneは現在、6カ国で展開されている。アップルは当初、iPhone 3Gを12カ国で展開する予定だったが、やがて目標を倍増させ25カ国展開をめざした。そして最終的には70カ国のキャリアと契約を結ぶに至っている。

 「我々はこれから数カ月にわたって、iPhoneを70カ国で展開していく」。ジョブズ氏は「我々はここにあげたすばらしいキャリアと組んで、国際展開をはかることになった」と語った。もちろん、映し出されたスライドには(左下隅に)SoftBankのロゴも掲載されている。

 最後の課題は「価格」だ。「iPhoneは最初599ドルで販売が始まり、今日では8Gバイトモデルが399ドルで売られている。iPhone 3Gは199ドルから購入可能になる」。ジョブズ氏がこう告げると、会場は再び歓声で埋め尽くされた。

 「この価格なら、誰でも買うことができるだろう。これは8Gバイトモデルの価格だが、299ドルの16Gバイトモデルもある。そして16Gバイトモデルでは特別に白モデルも用意した」。

 ジョブズ氏は「このように我々は5つの課題のすべてをクリアできたと思う」と語り、iPhoneを全70カ国中、まずは最も大きい22カ国で同時発売すると明かした。日付は7月11日だ。この22カ国には、もちろん、日本も含まれる。

 「そしてこれら22カ国すべてで、8Gバイト版iPhoneの価格は最大199ドルで、それを超えることはない」とジョブズはつけ加えた。「我々はiPhone 3Gに非常に期待している」。

 それからジョブズ氏は、iPhone 3Gの新しいCMを2回流した。CMでは「あのiPhoneが、Webブラウジングを2倍高速にする一方で、価格を半分に引き下げて再登場した」というナレーションがかかる。

 喝さいが鳴り止まない中、ジョブズ氏はiPhone 3Gの開発に関わったメンバーを聴衆に紹介し、自らも拍手を送った。「我々が彼らのようなすばらしい逸材に恵まれていることは、あなたがたも感じてもらえるだろう」。

 「WWDC 2008は、これまでのWWDCの中でも最高のものになるだろう。147セッションが用意され、1000のアップルエンジニアが参加する。また会いましょう」。ジョブズ氏はこう語って、講演を締めくくった。

●iPhone開発者向けファンドも参加

 初めてチケットを売り切った今年のWWDCは、確かに人数的にも、これまでで最高のWWDCだ。すれ違う参加者に話を聞いてみると「iPhoneでの開発に興味があって参加した」という「初参加者」が驚くほど多い。会場近くでは、日本のゲーム業界の有名プログラマの目撃談もよく聞く。これまでのWWDCとは、明らかに客層も雰囲気も異なっている。

 会場の入り口では、今回のWWDCのチケットを買いそびれた筑波大学発のベンチャー企業、ニューフォレスターの代表が開発したiPhone向けDJソフト「IPJ-R01(RAIJIN:雷神)」と「IPJ-F01(FUJIN:風神)」をデモしており、行き交う開発者から注目を集めていた。

 数日前に観光地で路上パフォーマンスをした際、現地の黒人ダンサーに見初められ、宣伝用の看板の指導やブームボックスと呼ばれる巨大ラジカセの提供を受けたそうで、英語が苦手な彼らに代わってこの黒人ダンサーが行き交う開発者に商品の宣伝をしていた。

 こうした高まるiPhone開発機運に応えるように、今年はこれまでにはなかったタイプのセッションも用意されているようだ。

 ジョブズ氏は口頭では触れなかったが、スライドに「iFund」のセッションがあると書かれていた。iFundとはジョン・ドーア氏という有名な投資家が率いる米ベンチャーキャピタル大手、KPCBによるiPhone開発者の投資ファンドのこと。

 これからはiPhone向けコンテンツが大バケすると踏んでスタートした1億ドルのファンドプロジェクトで、すでに位置情報サービス「Whrrl」を開発するPelagoが同社からの出資を受けている。

 会場周辺で、iPhunding.comという英国のiPhone開発者向け投資ファンドの運営社2人にも出会った。

 同社代表のTony Clark氏によれば「米国の大手ベンチャーキャピタルは、投資先企業がシリコンバレーにあることを重視する傾向があったり、投資する企業に対して、いろいろと口出しすることが多いところもある。それに対して、我々は元々が開発者出身なので、開発者がどうしたら仕事がやりやすいかを理解し、あまり干渉しない方針をとっている。また、世界のどこにいる開発者でも、Skypeや電子メール、Web共有などを使って手軽にアプローチしてもらえるようにしている」と語っている。

 WWDCの開催以後になって、新iPhoneでは端末価格を下げるために、従来のようなキャリアがアップルに上納金を支払うモデル(レベニューシェア・モデル)を取りやめ、昨年までの日本の携帯メーカーのような、販売奨励金を受けるモデルを採用していることなどが明らかになってきているが、これもアップルがiPhoneを、ただの携帯電話からコンテンツプラットフォームと解釈し直した証拠だろう。

 話を聞いた何人かのゲーム会社のプログラマによれば、これまでのゲーム機の開発に比べて、iPhoneの開発は開発環境がオープンなうえに扱いも簡単で、開発意欲がどんどん湧いてくるのだと言う。そしてさらに、開発したソフトを簡単に世界62カ国で売ることができるのも大きな魅力だと語る。

 まもなく日本で登場するiPhoneは、携帯電話としてだけでなく、これまでの携帯型ゲーム機に代わる存在としても存在感を増していきそうだ。

【関連キーワード】 iPhone | Apple

  Macで、Windowsで、iPhoneで、いつでもどこでも「MobileMe」
  WWDC'08基調講演まとめ(前編):「iPhone 2.0」で何が変わるのか?
  「iPhone 3Gは最良の体験をめざして進化した」——iPhone/MobileMe担当者インタビュー

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080618-00000051-zdn_pc-sci