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2008年06月17日(火) 00時00分

(9)漫画風表紙 文庫ヒット読売新聞

漫画「デスノート」風のカバーになった集英社文庫の「人間失格」

 表紙は人気漫画「デスノート」の主人公風の男が、いすに腰掛けて不気味にほほえむイラスト。「人間失格」の赤い文字が目に飛び込む。「漫画版かな」と思って開くと、中は活字。集英社文庫が昨年6月に発売した太宰の新装丁本だ。

 漫画家小畑健さんのイラストを表紙にしたら、売れに売れ、1年間で21万部に達した。初版から表紙を変えるまでの16年間で37万部だったのだから、爆発的ヒットと言うしかない。

 漫画の表紙を発案したのは、入社5年目の伊藤亮さん(27)。2007年は集英社文庫の創刊30周年にあたり、前年から新装丁のアイデアを練っていた。

 太宰の「人間失格」は、「三葉の写真」で始まる。その一葉に「美貌(びぼう)の学生の写真」がある。学生服を着て、胸のポケットから白いハンカチをのぞかせ、籐(とう)のいすに座っている——。ふと「デスノートの小畑さんに依頼できないか」と思いついたという。

 伊藤さんから、小畑さんの画集とデスノートのコミックを見せられた小山田恭子編集長は、思いがけない提案に一瞬驚いたという。

 伊藤さんにしてみれば、漫画も小説も作家が自分の世界を表現するのは同じ。「デスノートと太宰の破滅的な雰囲気は通じるものがある」と感じていた。

 原画ができた。伊藤さんも小山田編集長も格調の高さに感動した。「『人間失格』の表紙として普遍性のあるものだ」と確信した。

 新装版が出回り始めたころ、伊藤さんは書店を訪ねてみた。「人間失格」は、デスノートと並べて置かれていた。これは全く予想外の展開。270円という安さもうれしい。「太宰作品は今の若者も共感できるはず。きっと文庫を手に取る若者も増えたと思います」

 没後50年を経て、太宰の著作権は1999年に消滅した。文春文庫や小学館文庫でも、「人間失格」の出版が相次いでいる。

 老舗の新潮文庫では、「人間失格」は611万部に上り、漱石の「こころ」(637万部)に次いで2位。教科書でおなじみの文豪作品に肉薄するとは。太宰はいまでも売れっ子だ。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231212425875707_02/news/20080617-OYT8T00698.htm