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2008年06月17日(火) 14時26分

目が見えなくても、芝居はできる!オーマイニュース

 「目の見えない女性が芝居を見に来ている」

 かつて刑事ドラマなどで活躍した俳優・平野恒雄さん(現・劇団ふぁんハウス代表)はあるとき、そんな話を聞き、衝撃を受けたそうです。

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 彼にとって、「目が見えないのに芝居を見る」という行為は信じられないことでした。会ってみたところ、その女性は演劇が大好きで、「自分に演技指導をしてくれないか」と言っていたそうです。実際、彼女はいくつもの劇団の門をたたき、どこからも門前払いにされていました。

 平野さんは早速、簡単な2人芝居を企画し、演じてみたそうですが、これが好評。「いける」と感じ、視覚障害者と健常者が一緒に本格的な芝居をつくる「劇団ふぁんハウス」を立ち上げました。1998年のことでした。

■目が見えない割にがんばってるね、では自己満足

 「劇団ふぁんハウス」は、公演を重ねるごとに評価が高まり、今年、ついに15回目の公演を行うこととなりました。演目は『夢めぐり』といいます。公演は7月11日(金)〜13日(日)、東京・赤坂コミュニティーぷらざ内、赤坂区民センターで行われます。

 役者やスタッフとして参加する視覚障害者は5名。

 音声ガイドを導入しているので目の見えない人でも芝居を楽しむことができ、また、会場の最寄り駅・赤坂見附駅では、改札からガイドヘルパーが案内してくれると言います。「劇団ふぁんハウス」が「バリアフリー劇団」と呼ばれている由縁です。

 平野さんは、「特捜最前線」や「あぶない刑事」など、テレビドラマにも多数出演経験のある元プロの役者。現在は会社勤めのかたわら、この劇団に情熱を燃やしています。

 平野さんは、「劇団ふぁんハウス」が単なるボランティア劇団と思われることを嫌います。

 「目が見えない割にはがんばってるね、では自己満足にしかなりません。入場料をいただく限りは、ちゃんとした芝居を上演し、お客さまに楽しんでもらわなければならない。演劇の評価に、目が見える見えないは関係ないですからね。その『甘え』をとっぱらって初めて演技者はやりがいを持てるし、観客にも面白く感じていただけるのではないでしょうか」

 公演の6、7カ月前から激しいけいこを重ね、途中で音を上げる劇団員も珍しくないという。また、「かわいそうな人たちを助けたい」というような動機で入ってきた人は、続かないケースが多いそうだ。

 「僕たちは演劇が好きで、演劇をやりたい人間の集まりなんです。スタッフの何人かは目が見えない、というだけで、『かわいそう』でもなんでもない」

 とはいえ、視覚障害者への演技指導は簡単ではありません。ポーズ1つとっても、“指導者がやってみせたうえで、手でさわってもらいながら”という作業が必要になります。また、舞台を自由に歩きまわるには恐怖心の克服が必要。

 そのため、視覚障害者は位置と方向感覚を繰り返し繰り返し練習することでつかみ、周りも、芝居のなかで自然な声かけをしたり、手を引いたりしながらフォローするという「決まりごと」を随所にちりばめます。

 そんなチームワークもこの劇団の醍醐味(だいごみ)と言えるでしょう。

 さて、例年、劇団ふぁんハウスの芝居は、明るさ、楽しさとペーソスを基調に、意外な展開、どんでん返しなどで観客を楽しませます。ところが今年の公演について、平野さんはこう言っていました。

 「“あきらめない”をテーマに平凡な日常を切り取った味わい深いものになっています」

 7月11日〜13日、「劇団ふぁんハウス」ワールドを実感しに、私も赤坂区民センターに出掛けるつもりです。

(記者:高根 文隆)

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