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2008年06月16日(月) 13時33分

過当競争で居酒屋タクシーも止むなし? 個人タクシー業者の「残酷物語」ダイヤモンド・オンライン

 「でんでん虫のお陰で、個人タクシー全体のイメージが悪くなった。やってられないよ」と、ある個人タクシーのドライバーはぼやく。

 でんでん虫とは、東京都個人タクシー協同組合(東個協)に加盟し、「かたつむり型の行灯」をつけて営業するタクシーの通称。実はこの組合、今世間から批難を浴びている「居酒屋タクシー」の温床と目されている。

 携帯電話1本で霞が関に駆けつけ、職員に車内でビールや商品券などを振る舞っては「お得意様」を増やして来た居酒屋タクシー。調査では、彼らに利益供与を受けた職員は500人を超えている。居酒屋タクシーの9割型が個人タクシー、それもタクシーチケット契約で霞が関を大得意先としてきた東個協の加盟者と目されているため、同胞からも批難を浴びているのだ。

 しかしその一方で、業界には居酒屋タクシーに同情する声も少なくない。その背景には、過当競争による市場の地盤沈下により、ドライバーが生活苦に陥っている現状がある。
 きっかけは、2002年に始まったタクシー業界の「規制緩和」だ。新規参入のタクシー会社が急増した結果、全国のタクシー台数は、07年3月までの5年間で約1万5000台も増え、いまや約27万4000台に達している。その結果、市場は過当競争に陥り、客の取り合いが熾烈化したのだ。

 バブル崩壊以降、乗車客が3割も減った一方で競争が激化した影響は甚大だった。法人タクシー主要35社の実車率は約43%程度に留まり、売上減少に悩むドライバーが続出している。昨年と今年を比べただけでも、タクシー1台の1日当たり平均運送収入は、2300円減って4万8000円台となっている。

 ただでさえ、タクシードライバーは歩合制が厳しいうえに手取りが少ない。平均年収は日本の全男性労働者の6割弱、約330万円に過ぎないのだ。「1日15時間働いても、売り上げの半分は会社にさっ引かれて、手取り月収はわずか25万円」と嘆くのは、大手タクシー会社のドライバー。

 それに加えて、昨年全国で行なわれた「運賃値上げ」の影響で客足がさらに減っている。今後もガソリン価格の高騰、行政指導による車内禁煙化や後部座席のシートベルト着用義務化などにより、客足に影響が出そうだ。

 特に不安を募らせているのが、個人タクシー業者である。

 1台500万〜600万円程度の乗用車の購入代やメンテナンス代、値上がり中のガソリン代などは当然ながら自分持ち、組合に加盟しないと無線配車によるお客の確保もままならない。平均年齢は61歳と高齢化も進んでおり、規制緩和以降、荒波に飲み込まれた個人タクシーの台数は、増えるどころか全国で約630台減ってしまった。

 最近は、立場の強い法人タクシーとの対立も増えている。「お客を拾い易い駅前のタクシー乗り場は、駅の関係者と懇意にしているタクシー会社が占拠しており、個タクはみな締め出されている」 「一度タクシー会社を辞めて個タクの試験を受けて失敗し、面接に来たドライバーを、地域のタクシー会社が軒並み採用拒否したらしい」などの恨み節も聞こえてくる。

 そもそも個人タクシーは優良ドライバーが多く、お客の信頼も厚い。だが、このような現状では、彼らのモラルが低下するのも無理はなかろう。現在、各業界団体は規制緩和の見直しを国土交通省に訴えている。その声が国に届かない限り、居酒屋タクシーが消えることはなさそうだ。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

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