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2008年06月16日(月) 15時01分

佐世保発!:本当の強さ /長崎毎日新聞

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、容疑者の供述や周囲の話から、事件の背景が明らかになりつつある。
 「中学時代までは幸せだった」。成績が良く、スポーツも得意な優等生だったころを、容疑者はこう振り返ったという。しかし、高校では成績が振るわず、希望の大学にも行けず、挫折感を味わった。短大卒業後は、住まいも職も転々とし、事件直前は、派遣先の職場や仕事への不満やいらだちを募らせていた。
 報道内容でそんな経過をたどりながら、私は作家の毛利甚八さんが、1日に佐世保市の大久保小であった「こころを見つめる集会」で、子どもたちに語りかけていた言葉を思い出していた。
 「今弱くてもいい。あんまり無理して強い人のようにしないでください」
 「弱っちかった」小学生時代。運動会ではいつもビリだった。山越えで片道1時間かけて小学校に通い、我慢できずに、うんちを漏らしてしまったこともある。でも、中学の千五百メートル走で、学年で1番になって自分でもびっくり。そんな体験談を語ってくれた。
 秋葉原事件の容疑者は、事件前日の携帯電話の掲示板サイトに「小さいころから『いい子』を演じさせられていた」と、親への恨みを書き込んでいたという。期待に応えられず挫折した自分への不満や孤独感を10年近く、内にため込み、逆恨みの感情をはぐくんでしまったようだ。
 毛利さんはこうも言った。「自分が選べない弱さ、悲しさがあることを認めること。こんな部分があるなあと認めたら、自分のと同じ弱さを他の人の中にも見つけることができる」。そして「格好悪くても言葉にしないと伝わらない。2人、3人になれない」と。
 こんな話を容疑者が聴く機会があったら、ひょっとしたら、と思わずにはいられない。<佐世保支局長・谷由美子>
〔佐世保版〕

6月16日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080616-00000186-mailo-l42