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2008年06月15日(日) 08時00分

秋葉原無差別殺傷1週間 「事件後…考えなかった」産経新聞

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、静岡県裾野市の派遣社員、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)=殺人未遂の現行犯で逮捕=が警視庁万世橋署捜査本部の調べに「事件を起こした後のことは考えていなかった」と供述していることが14日、分かった。日曜の歩行者天国での凶行から1週間。加藤容疑者は「決意の上だった」と明確な殺意で犯行に及んだことを認める供述もしているという。一方、検察当局は責任能力に問題がないことを確認するため、東京地裁に鑑定留置を請求する時期について検討に入った。

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 ■時間調節で走る

 加藤容疑者は8日午後0時半ごろ、2トントラックで歩行者天国の交差点に進入し、男性5人をはねた後、殺傷能力の高いダガーナイフで男女12人を次々に刺して、計7人を殺害した。

 携帯電話サイトに加藤容疑者が書き込んだとみられる掲示板によると、秋葉原には同日午前11時45分ごろ到着。午後0時10分に「時間です」と最後の書き込みをしている。

 加藤容疑者は「正午から歩行者天国になり、人がたくさんいることを知っていた」と供述。到着から犯行までの45分間、近くの量販店でトイレを借りたり、現場周辺をトラックで走り回るなど時間調節していた。

 捜査本部が、現場周辺に設置された防犯カメラの映像を調べたところ、交差点の西約300メートルのマンションのカメラに午後0時15分と同26分の2回、加藤容疑者が乗ったとみられるトラックが写っていたほか、その北約200メートルのビルの前を同24分に通過。さらに、現場の交差点も1往復していた。

 犯行前日の7日には、パソコンなどを売却し犯行資金を捻出(ねんしゅつ)する傍ら、現場周辺で歩行者天国中の警察の警備状況や通行量を聞いて回るなど入念に下見。8日も歩行者天国に通行人が増えるタイミングをうかがっていたとみられる。

 ■ネットでも無視

 「高校入学までは順調だったが、その後は思うようにいかなかった」「自分の人生がいやになった」

 家族との不仲、職場の境遇への不満…。加藤容疑者は淡々と取り調べに応じているが、時折、涙を浮かべて犯行を後悔する態度も見せている。夜間は小さな物音でも目を覚まし、神経過敏になっているという。

 インターネットの掲示板の書き込みは、5月下旬に派遣先の自動車工場で派遣社員の人員削減計画が持ち上がったことが影響し、日増しに投げやりになっていった。≪私、6月でクビだそうです≫≪やっぱり私は要らない人です≫

 さらに≪他人の不幸は蜜の味 みんな死ねばいいのに≫といらだちをぶつけると、≪皆を踏みにじったのはお前。友達できるはずがない。しねよ≫とインターネットの“住民”にも突き放された。ネットは本人が認める≪唯一の居場所≫。“住民”が接触を断つと、≪ネットですら無視されるし≫と孤独感を募らせた。

 6月5日早朝。工場の更衣室でツナギ(作業服)が見つからないことに立腹し、同僚のツナギを床にばらまき、壁をけるなどの騒ぎを起こす。≪作業場行ったらツナギが無かった 辞めろってか≫。緊張の糸が切れた瞬間だった。加藤容疑者はこの2日前、派遣元から削減対象とはなっていないことを知らされていたが、そのまま無断欠勤し、一方的に「会社は辞めた」(加藤容疑者)。

 「ツナギがなくなり、やけを起こした」

 加藤容疑者は犯行につながる直接のきっかけをこう説明しているという。

 ■責任能力を確認

 加藤容疑者の異常性が際立っているのは、以前からサイトで公表していた“無差別殺人計画”をわずか2日間で準備し、平然と実行している点だ。逮捕時にアルコールや薬物は検出されなかった。犯行の引き金となった“ツナギ紛失事件”にも不可解さが残る。加藤容疑者が暴れながら床にばらまいたツナギの中に本人のツナギがあったからだ。

 「不満を爆発させるきっかけになれば、何でもよかったのかもしれない」とみる捜査幹部もいる。取り調べで加藤容疑者は「うそはつきたくない」と話した上で、犯行に至る動機を供述。今後の公判で事実関係が争点となる可能性は低いとみられる一方、家族関係や仕事への不満など動機が複雑に絡み合い、トラックとナイフで17人を殺傷するという犯行の異常性から、責任能力の有無が争われる可能性もある。

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