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2008年06月14日(土) 19時31分

【岩手・宮城内陸地震】「脱線」の悪夢が脳裏に… 乗客が語る緊迫の車内産経新聞

 マグニチュード7・2の強烈な揺れは、走行中の東北新幹線にも襲いかかった。平成16年10月の新潟県中越沖地震では、上越新幹線が脱線し「あわや」の事態に。今回も乗客の脳裏には悪夢がよぎったに違いない。地震発生時、「やまびこ」に乗っていた岩手県の公務員男性が、緊迫する車内の様子などを語った。

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 「落ち着いてから考えると、よく脱線しなかったなあと思いますよ」
 岩手県北上市の公務員、高橋尚文さん(51)は、東北新幹線「やまびこ」で北上駅から一ノ関駅に向かう途中、地震に遭遇した。発生時に走っていたのは、震源地の真上ともいえる水沢江刺駅と一ノ関駅の間。新潟県中越地震で脱線した上越新幹線の車体が脳裏に浮かんだという。
 トイレに入っていたとき突然、電気が消えた。トイレの電球が切れたのかと思ったが、廊下の照明もすべて消えていた。徐々に車両が減速し始め、初めて「何かが起きたみたいだ」と思った。
 「走行中に揺れたので全然気づかなかった。車両も急ブレーキではなく、滑らかに停止しました」
 窓外を見ると、架線が揺れていた。
 「地震だ」
 そう思った瞬間、最初の余震で車体がグラッと大きく揺れた。車内放送で地震が起きたことが知らされ、照明も復旧したが、その後も大きな余震で2回ほど電気が消えた。
 「復旧には8時間以上かかります」
 「在来線も止まっています」
 状況説明は20〜30分に1回くらいの割合で行われた。電気が付いている間は空調も整っていたので暑苦しくはなく、他の乗客も騒いだりしなかったという。
 病人が出ることもなく、興奮して車掌に詰め寄る乗客もいなかった。
 「東北人は地震に慣れているので落ち着いていた。『まあ仕方がないね』という感じで騒がなかった」
 テレビドラマのような修羅場はなかった。「一生に一度くらいはこういう経験をするものなのかね」。そう話す乗客もいたという。
 午前11時過ぎ、車両を降りて線路を歩き始めた。高架から降りるハシゴがあるところまで20〜30分ほど歩き、JRが用意したバスやタクシーに分乗して一ノ関駅に向かった。
 荷物を持って歩くことになったが、「曇り空で暑くなかったので助かった」。車両の乗降口には多くのJR社員が詰めかけており、乗客に「大丈夫ですか」と声をかけたり、荷物を持ってあげたりしていたという。
 一ノ関駅では、西口に行ったり東口に行ったり、たらい回しにされた。“被災”した乗客の中には、バスで仙台まで行きたい乗客もいれば、水沢江刺駅まで引き返したい乗客もいる。だが、一ノ関駅は駅員が出払っているのか、「この後」を説明してくれる駅員がいなかった。
 「大きな地震があったのだから大変なのは分かる。JR側の『土曜日だからバスの手配が難しい』という説明も理解できる。でも、長時間待たせたのだから何か準備する時間があったのではないか」
 高橋さんは、一ノ関駅で3時間近くも待たされていた。車両の中では平静だった乗客だが、一ノ関駅では「新幹線の中で3時間も待ったじゃないか」と駅員に詰め寄る人もいたという。
 「時間が経てば経つほど情報が集まるので、普通は対応がよくなるはず。今回は逆だった」
 高橋さんが北上駅に着いたのは午後4時過ぎだったという。

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