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2008年06月14日(土) 22時15分

【岩手・宮城内陸地震】避けられぬ孤立集落 その対策は…産経新聞

 岩手・宮城内陸地震で、中山間地域の集落の多くが“陸の孤島”となった。平成16年の新潟県中越地震では、旧山古志村(現長岡市)など61集落が孤立し、防災力強化がクローズアップされたが、今回、改めて対策が難しいことが浮き彫りとなった。面積で約7割、人口で約1割を中山間地域が占める地震国・日本。専門家は「孤立集落を未然に防ぐことは難しく、むしろ孤立後の対策が重要だ」と警鐘を鳴らしている。
 震度5強を記録した岩手県一関市。同市の山間部にあるこけし工房「雪やけこけし高長木芸」には地震直後から、周辺道路が寸断されたため、帰ることができなくなった観光客ら36人が続々避難。余震が続く中、施設内も危険とあって、避難者は屋外や車の中で救助を待つという不安な状態が続いた。日が傾き始めると、互いに励ましあった。
 中山間地域とあって、携帯電話は圏外で通話できず、唯一の連絡手段は工房内の有線電話1本のみ。避難者はこの電話を頼りに役場や警察から情報を集めた。
 工房の高橋清輝さん(26)は「家にあった食べ物は午前中に分けてしまい、もう無くなった。水道からは濁った水しか出ない。ヘリは近くを通るが、いつに助けに来てくれるのか」と不安げに語った。
 土砂が流れ込み河川をせき止める大小の「土砂ダム」が岩手、宮城両県で複数確認された。決壊の恐れもあり、取り残された被災者に新たな危険も懸念されている。
 中越地震後に内閣府が行った調査によると、集落に通じる道路が「土砂災害危険個所」に隣接するなど、災害時に孤立する可能性のある中山間地域の集落は、全国で約1万7000カ所にのぼった。この中には岩手県の230集落と宮城県の150集落が含まれている。
 それまで山間部の地震対策は、神奈川県箱根町が、幹線道路寸断による孤立に備えて10万人分の食糧を備蓄していた程度だった。このため、内閣府は17年、通信手段の確保や応急物資の備蓄といった孤立地域対策を提言。各自治体も提言に沿って地域の特性を生かした対策に乗り出している。
 世界遺産「日光東照宮」などを抱える観光地の栃木県日光市は、県境と接する群馬や福島の計4市町村と協定を結び、備蓄食糧や生活物資の提供などの応援態勢を整備。宮城県内でも、日本三景の一つである松島のある松島町が地元旅館組合と協定を結び、災害時の避難所に町内の旅館を充てる計画を進めている。
 それでも山間部への地震対策は十分とはいえない。
 筑波大学の糸井川栄一教授(都市防災計画)は「投資バランスを考えると、中山間部から都市部につながる幹線道路の整備は難しく、震災による孤立を未然に防ぐのは困難。むしろ孤立に備え、周辺との連絡手段の確保や集落内の共助体制を日頃から整えていくことが住民を守ることにつながる」と指摘している。

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