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2008年06月14日(土) 14時02分

発生確率99%:必ず来る県沖地震 最前線の人に聞く/1 大井剛さん /宮城毎日新聞

 ◇「死者ゼロが最大目標」−−仙台市若林消防署特別機動救助隊長・大井剛さん(43)
 78年に28人の犠牲者を出した県沖地震は、近い将来の再発が確実視されている。家屋やブロック塀の倒壊、津波やライフライン障害などさまざまな被害が想定されるが、実際に地震が起きなければ分からないことの方が圧倒的に多い。県民の生命を守るために働く人たちはまず、どんな行動を取るのか。日ごろからの備えや県民に伝えたいことなどとともに、「今地震が起きたらどうするか」を聞いた。【青木純】
 ◇自分の身、守る用意を
 <07年4月に新設された「特別機動救助隊」の隊長。新潟県中越地震(04年10月)で、土砂崩れで埋まった男児の救出を成功させた人命探査装置「シリウス」など高度な機材を備えており、県沖地震が再発した時には700人近くに上るとされる「要救出者」のレスキュー活動を行う>
 消防署にいる時に地震が起きれば、どんな小さな揺れでもすぐに全消防車を車庫から出します。車庫が閉まっている夜なら、まずシャッターを開けます。車を外に出せなければ、救助ができなくなりますから。
 もちろん、自宅で被災する可能性もある。家族がけがをすれば、活動に出られません。だから、家内には常に「地震の時は大黒柱がいなくなるから、自分一人で救出活動をできるようにして」と話しています。
 <消防士になって23年目。03年5月にアルジェリアで発生した地震(死者2000人以上)では国際消防救助隊の一員としてレスキューに当たった。95年1月の阪神大震災でも発生2日目に現地に入り、生き埋めになった人を捜索した>
 阪神大震災の被災地に入った瞬間、言葉を失いました。都会でビルがあるはずなのに、街が真っ平らに見えたからです。
 神戸市東灘区で倒壊した家屋を一軒一軒回り、生存者を捜す仕事に当たりました。収容した遺体は19人、生存者はゼロでした。活動の中で感じたのは、その瞬間どこにいたかが生存と死亡の境目になっていた、ということ。我々の仕事と相いれませんが、運命みたいなものを感じました。
 <阪神大震災の被災地では、地元住民が周辺の状況を熟知している地区がある一方、隣人が無事なのか知らない地区もあったという。県内でも新興住宅地を中心に、近所付き合いが薄れていることに強い危機感がある>
 生き埋めになった人を捜し出すまで4〜5時間、そこから救出完了まで3〜4時間はかかります。それも「ここに人が埋まっているはず」という情報があればの話です。我々が迅速に活動できるよう、近所付き合いは大切にしてほしいと思います。
 震災時には、普段は1、2日で治るかすり傷が1週間も治らない、ということもよくあります。自分の身は自分で守るため、安全な靴や手袋、帽子は用意してほしいです。
 <県の被害想定では、県沖地震が再来した場合、最大で死者は164人、全壊・大破家屋は7595棟に上るとされる>
 兵庫と宮城で全く同じ状況にはならないでしょうが、古い家屋が倒れ、大量のがれきが道をふさぐ事態は想定しています。火災や交通事故による被害と、圧倒的なエネルギーを持つ地震による被害はまったく違う。隊員の安全を確保しながら、持っている資機材の能力を最大限引き出せるよう、連日訓練を続けています。
 地震が起きても、死者ゼロで終わらせることが最大の目標です。もし家屋の下敷きになった人がいても、その後に社会復帰できるよう安全に救助したい。赤い車を走らせて、それを見た住民に安心してもらうのが消防の役割。期待を裏切らないよう全力で市民を守りたいと思っています。

6月14日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080614-00000114-mailo-l04