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2008年06月13日(金) 12時11分

仕事があれば彼氏は当分いらないわ〜亀山早苗コラムオーマイニュース

 環境が変わると、人は考え方も変わる。そうなるとつきあう相手への疑問まで感じてしまうようになることがあるらしい。

 「私、一昨年の夏、突然リストラされたんです。大学を卒業してから丸8年働いてきた会社でした。なぜ私なのかとショックでしたね」

 里沙子さん(33歳・仮名)はそう話す。決して仕事一筋、キャリアを目指すというタイプではなかった。すでに2年ほどつきあっている同い年の彼もいたし、もう少し働いたら結婚して、家庭に入ってもいいかなと考えていた。

 「彼にリストラされたと話したら、『いいきっかけだから結婚しようか』と言われたんです。そう言われて、なんとなくそれでいいのかなと考え込んじゃって。ここで結婚して家庭に入ったら、私、負けたままじゃないかと。会社の都合だから失業保険もすぐに出る。最初はしばらくのんびり暮らそうと思っていたんですが、1カ月もしたらイライラしてきちゃって。私はこのままで終わりたくない。珍しく闘志がわいてきたんですよね」

 そこであらためて自分の仕事への姿勢を顧みた。仕事は自分にとって何だったのか。

 「その場その場では一生懸命やってきたつもりだけど、仕事と人生をきちんとつなげて考えたことがなかった。実家に住んでいるから、ひとり暮らしの人のように生活の糧とも考えなかったし。結局、いい加減に生きてきたんですよ」

 一念発起して、コンピューターの学校に1年間通い、技術を身につけた。そして昨年秋から必死に就職活動を始めた。

 「技術や資格があっても、そう簡単に30歳を過ぎた女は就職できません。もう当たって砕けろの精神で、事務職から営業職まで受けまくりました。とにかく仕事がしたい、社会で自分を生かしたいという気持ちが日に日に強くなっていくのを感じたんです」

 彼には「顔つきが怖い」と言われた。それほど里沙子さんは必死だった。このままだと自分がダメになる。そればかり思っていたという。

 「30社ほど受けて、ようやく決まったんです。『あなたの熱意を受け止めます』と言ってくれる会社があって。うれしかった」

 今年の初めから勤め始めた。新人だからと誰よりも早く出社して、誰よりも熱心に仕事をした。「周りの人にも恵まれて」すぐに会社になじみ、春になるころには仕事が楽しくてたまらなくなっていた。

 「自分が変わると人生も変わるんだと初めて知りました。ただ、悲しいことに、彼は私の気持ちをわかってくれなかった。仕事が楽しいと話す私に、『どうせたいしたことはしてないんだろ』とか『オマエには仕事の大変さはわからないよ』とか、私の気持ちに水を差すようなことばかり。彼は彼で、私の気持ちが離れていくのを感じていたんでしょうね。実際、彼と一緒にいるより会社にいるほうが楽しかった。私自身、そういう気持ちを認めたくなかったけれど、仕事に本気で取り組むと、どんどんおもしろくなってしまって。このままずるずるしていてもしかたがないと思って、つい先日、別れを決めたんです」

 彼が悪いわけではない、自分が変わってしまったんだと里沙子さんはわかっていた。だが、変わってしまった自分は、変わらない彼とつきあってはいけないことも知っていた。「別れたいと言ったら、彼は『新しい会社に男ができたんだろう』とすぐに言いました。げんなりしましたね。彼はいつでも、女は男に頼らないと生きていけないものだと思っていたのかもしれない。そういう女のほうがかわいいんでしょうけど、幸か不幸か、私はそういう女でなくなってしまったんです」

 人は変わる。変わっていく自分を楽しむ女性と、そこにある種の恐怖感を覚えて気持ちが引いていく男性。そういう図式はときどき見聞きする。

 「結局、彼も『オマエは変わった。つきあいきれないと前から思ってたよ』と捨てぜりふを残しました。別れたことを後悔してはいないんですが、もしかしたら、突っ走ってきた私が彼を見下しているような言動をとったこともあったかもしれない。最近、ちょっと冷静になってそう思うようになりました。恋愛は当分いいやっていう感じです。しばらく仕事に打ち込みます」

 仕事がおもしろくなると、恋愛なんてしばらくいらない。そんなふうに断言する女性が増えているような気がしてならない。

(コラムニスト:亀山 早苗)

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