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2008年06月13日(金) 15時55分

脱北女性、総連提訴 「組織的に誘拐した」 収容所から救出、涙で訴え産経新聞

 多くの在日朝鮮人らが北朝鮮に渡った帰還事業の開始からまもなく半世紀。大々的に宣伝された「地上の楽園」とかけ離れた生活を強いられた脱北者の千葉優美子さん(47)が13日、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)への提訴に踏み切った。帰還者の中にはいまだ安否すら判明していない人が多い。支援者は「救出活動の関心を高めたい」としている。

 千葉さんは提訴後、大阪市内で記者会見。朝鮮総連について「人をだまし、組織的に誘拐した。人権と自由を無差別に奪った悪魔みたいな団体だ」とたどたどしい日本語で批判。「私1人の問題ではない。今も強制収容所の中で必死で生き延びようとしている人がいる」と涙ながらに訴えた。

 千葉さんは昭和38(1963)年10月、両親ら家族7人で新潟県から北朝鮮に向けて出航。「何の心配もなく生活できる」と朝鮮総連構成員に説得され、両親が帰国を決断したという。

 船が北朝鮮の清津に着いたとき、10代半ばだった兄は、人々のやせ細った体つきやみすぼらしい服装、老朽化した建物などを見て落胆し、「日本へ戻りたい」と訴えた。このため北朝鮮当局に連行された後、強制収容所に送られ、1971年に死亡。父もスパイの疑いで収容所送りとなり、拷問を受けたという。

 千葉さんも96年、外貨稼ぎをめぐって処罰された帰還者の知人男性に金を貸していたとして責任を問われ、山中に追放を命じられた。「もううんざりだ」。すでに結婚して長男と長女の子供2人がいたが、脱北を決意し2000年11月、子供らと中国側に脱北。しかし、03年に強制送還され、収容所に入れられた。約5カ月間ろくに食事を与えられず、殴るけるの激しい拷問が続いた。

 「地上の楽園」どころか生き地獄のような日々。「死んでも北朝鮮から脱出する」と決心し、一時的に釈放されていた03年11月、長男と一緒に脱北、中国に残っていた長女とも合流して日本に入国した。

 日本に住む脱北者の中には親族らを北朝鮮に残してきた人が多い。千葉さんの家族もまだ北朝鮮にいる。今回の提訴で実名を公表したことで、さらに迫害を受ける可能性もある。脱北者を支援する「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の山田文明副代表(大阪経済大准教授)は「帰還者救出は停滞している。この状況を打破するため、千葉さんは相当の覚悟で提訴に踏み切った」と話した。

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【用語解説】帰還事業

 戦前に徴用されるなどして戦後も日本に残った在日朝鮮人らが国交のない北朝鮮への帰還を望んだため、昭和34年2月の閣議了解に基づき、日本と北朝鮮の両赤十字社が共同で開始した事業。朝鮮総連は帰還を奨励した。59年までの間に約9万3000人が北朝鮮に渡り、このうち日本国籍を持つ日本人妻や子供らは約6800人とされる。

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