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2008年06月12日(木) 00時00分

【アキバ惨劇】(下)「孤独」解消 社会全体で読売新聞

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件から4日目の11日。横浜市の中華街では、2人ひと組の制服警官が巡回する姿が目についた。

 目抜き通りは日中、秋葉原の現場と同じく歩行者天国になる。「街に出る警察官をとにかく増やせ」。事件の翌日、そう指示を出した神奈川県警の幹部の表情は厳しい。

 今回の事件で大きな課題を突き付けられた警察当局だが、具体的な再発防止策は打ち出せていないのが実情だ。警察庁のある幹部は「ああいう犯罪を完全に防ぐには、警察官を10倍に増やして、全国の繁華街に数メートル間隔で立たせるぐらいのことをしなければ無理だ」と話す。

 繰り返される無差別殺人。「誰でもよかった」と供述する若者の共通項として、福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)は「孤独」を挙げる。「日常的な不満やうっぷんをぶつける相手がいない生活を続けるうちに、蓄積された憎悪が『社会』や『勝ち組』といった不特定多数の人々に向かうようになる。この手の犯罪は今後も増えるだろう」

 もちろん孤独な若者のすべてが無差別殺人に走るわけではないが、同様の見方は警察内部にも多い。泉国家公安委員長も10日の記者会見で、「警察だけではなく社会全体で対処しなければならない」と述べた。

 不可解な動機に駆られて無差別殺人事件を起こすような若者が出てくる原因を探るために、近く有識者会議を招集するのは文部科学省だ。教育心理学などの見地から研究を急ぐ。

 海外の取り組みを積極的に導入しようという声も出始めた。自民党の治安再生促進小委員会の検討にかかわったメンバーの一人は「いよいよ日本版コネクションズの導入を急がなければならなくなった」と語る。

 同委員会は4月、英国の「コネクションズ制度」を日本にも取り入れるよう政府に求める提言をまとめた。社会に適応できない若者の家を相談員が訪れ、疎外感や孤独感を取り除くことで、無謀な犯罪に走るのを防ごうという試みだ。

 小中学校時代の成績はトップクラスだった加藤智大(ともひろ)容疑者(25)。しかし、犯行前に書き込んだとみられる携帯サイトの掲示板には「中学生になった頃(ころ)には親の力が足りなくなって、捨てられた」などと記されていた。「肉親も信じられなくなった彼に別の理解者がいれば、今回の事件は起きなかったかもしれない」と小宮信夫・立正大教授(犯罪社会学)は指摘する。

 ネット上の犯行予告への対応、ナイフの販売規制、派遣社員の身分の不安定さ……。事件を受け、11日に首相官邸で開かれた関係閣僚会合では、再発防止に向けて検討すべき課題として様々なテーマが挙がった。

 動機の見えない犯罪に、何が有効な対策かは誰にもわからない。だが、手をこまぬいているわけにはいかない。解答が見いだせない中で手探りの取り組みが始まろうとしている。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080608-2810266/fe_080612_01.htm