記事登録
2008年06月12日(木) 08時01分

加藤容疑者 ホコ天待ち凶行、明確な殺意供述産経新聞

 □職転々…立場不安定/リストラめぐり怒り/最近は親と音信不通

 ■募った不満爆発

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、静岡県裾野市の派遣社員、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)=殺人未遂で現行犯逮捕=が、警視庁万世橋署捜査本部の調べに対し、「正午から歩行者天国になることを知っていた。決意の上での犯行だった」と、明確な殺意をもって犯行に及んだことを認める供述をしていることが11日、分かった。地元・青森市の親については「うまくいっておらず、音信不通だった」としている。捜査本部では、親や職場に対して募らせた不満が犯行を誘発する要因となったとみている。

                  ◇

 ≪「止めてくれれば」≫

 加藤容疑者は犯行45分前の8日午前11時45分ごろ、秋葉原付近に到着。歩行者天国になる正午を回るまで、近くの路上で待機するなど時間をつぶしていた。

 午後0時半。「人がたくさんいるのを知っていた」。秋葉原の交差点にトラックで突っ込んで3人をはね、降車後は殺傷能力の高い両刃のダガーナイフで次々と通行人を襲った。

 犯行には6日に福井市で買った6本のナイフのうち「ダガーナイフだけを使った。靴下と上着の胸ポケットには(予備の)ナイフを隠していた」。「何人かはね、警察官を刺したことまでは覚えている」と、記憶があいまいな部分もある。

 「ネットの犯行予告に気づいて、誰かが止めてくれればよかった」。被害者への明確な謝罪はない。ただ、「7人が死んだ結果は申し訳ない」と、後悔の念をみせ、結果の重大性を認識し始めているという。

                  ◇

 「自分の人生がいやになった」。契約社員や派遣社員という不安定な立場で職場を転々としてきた加藤容疑者は、自身の境遇に話が及ぶと苦悶(くもん)の表情を浮かべるという。

 名門高校に入学したものの、岐阜県内の短大に進んだころから、加藤容疑者の“転落”は始まる。国立大学への編入を希望しながら実現せず、就職先も見つからないままに卒業。「高校入学までは順調だったが、その後は思うようにいかなかった」。短大卒業後、関東や東北を中心に職を求めたが、無断欠勤で解雇されるなどいずれも長続きしなかった。

 昨年11月からは静岡県裾野市の自動車部品工場に派遣されていたが、前後する9月〜今年2月にかけ、青森市の就職相談所を5回も訪れ、自動車工場の求人票を持って「車が好きで車関係の仕事をやりたい」と話していたという。

 5月末には、派遣先の工場で人員削減計画が持ち上がり、自身はリストラの対象でなかったにもかかわらず、同僚に不満を爆発させた。「結局いらなくなったら(クビを)切るのか」

                  ◇

 加藤容疑者は、青森では両親と弟の4人で暮らしていた。事情聴取で生い立ちを尋ねられると、時折涙をみせながら「親とはうまくいっていなかった」と話す。最近は「音信不通」と供述し、同僚にも「親に頼れない」と漏らしていたという。

 ため込んできた仕事や親への不満は5日朝に爆発した。出勤した際、「ツナギ(作業着)がなくなり、やけを起こした」。事件の引き金について「このトラブルです」と認める通り、加藤容疑者はこの日から刃物を買ったりトラックをレンタルするなど犯行の準備に入った。

 秋葉原に出発する前には趣味のゲーム機やソフト数本を同僚に譲渡。犯行直前には携帯電話のメール履歴といった全データを消去するなど身辺整理を図っており、「周囲に迷惑をかけたくなかった。決意の上での犯行だった」と供述している。

                  ◇

 ■「許せない」怒り新た、犠牲者の通夜・告別式

 無差別殺傷事件の犠牲となった人たちの通夜や告別式が11日、各地で執り行われた。

 東京芸大4年、武藤舞さん(21)の通夜は東京芸大に近い寛永寺輪王殿(台東区)で営まれ、多くの親族や友人らが出席。早すぎる別れを惜しむ出席者の長い列が、会場寺院の山門まで続いた。

 参列者によると、白い花が供えられた祭壇に飾られた遺影の舞さんは、にこやかにほほ笑んでいたという。音楽好きの舞さんのため、楽団によるバイオリンが演奏された。出席者らは白いカーネーションを献花し、冥福を祈った。舞さんの両親は、参列者の一人一人と亡くなった娘の思い出を語るなど、気丈に振る舞っていたという。

 親族の男性(38)は「以前から音楽の道を目指して、熱心に努力してきたのに報われなかった」と言葉を詰まらせた。高校で舞さんと同級生だった女性(21)は「部活でよく一緒にバイオリンを弾いた。これから活躍するんだと思っていた。(容疑者は)自分が『負け組』と言って、関係ない人を巻き込むなんて許せない」と、あふれる涙をぬぐった。

 東京情報大2年の川口隆裕さん(19)の通夜は千葉県流山市の斎場で営まれ、父の健さん(53)は「元気な姿で帰ることはない。胸が張り裂ける思いだ」。さいたま市では会社員、宮本直樹さん(31)の通夜が行われ、父の惇彦さん(60)は「犯人へますます憎しみが沸いている」と目を潤ませた。

 無職、中村勝彦さん(74)と調理師、松井満さん(33)の告別式も杉並区と神奈川県厚木市でそれぞれ執り行われ、参列者が理不尽な凶行に、改めて怒りをあらわにした。

【関連記事】
日本社会が生み出した「若者の危機」 海外メディアが分析
父「憎しみ増している」 宮本直樹さん通夜 秋葉原通り魔事件
「秋葉原と同じことやる」電話した男を聴取
【秋葉原17人殺傷の衝撃(下)】「器物破壊化殺人」生む疎外感 対策は「心開かせる社会」
「見せる警戒」「想定外」…どうする「ホコ天」安全対策 秋葉原通り魔事件

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080612-00000077-san-soci